第三幕

梨華ちゃん、ねえ、梨華ちゃん。僕は、酔っているよ。
君に、酔っているのかな。泥酔だ。僕は酒を、呑みすぎた。
君が、僕を無視するからだ」


「見えるかな? ジャーン。
これ、これがね、付け爪、なんですね。
いろいろあるんだけどね、その、曲によって作ってもらって、
これは、これはシャボン玉のときに」



「あいやー、爪がいっぱいだね。しかし、それを僕に見せて、
それで、僕は、何を言えばいいのですか。困るよ。
あ、そう。みたいな。僕は、正直、あっそう。しか言えぬのだ。
嫌がれるのはわかってるさ。わかりすぎるくらいに。わかっているけど。
え、付け爪! すっげえ! 興味深々だよ! どれどれ、ヒャッホウ!
なんて、演技できたら、いいね。僕は、死のうかな」


「見えないよね、ここにくればいいのか」



「りりりいりりっりりっり梨華ちゃん。ちっちちいちち、近いよ。
近いちかちかちあああ。かちかちかち山。
萌える、違う! 燃える! くそったれが! ちくしょうめ!
僕は、君がね、こんなに近くにいるのが、耐えられないのだ。
あああ。燃えた。僕は、真っ赤だ。見えるかい? 見てくれよ。
この、みっともない僕の顔をさ。醜いだろう? 笑ってくれよ。
君が、美しすぎるから、僕はもう、どうにかなりそうだ。
君は、たのむから、もっと、遠くに、ずっと、遠くに……、
とにかく僕から、離れてくれ。ああ、僕は、もう駄目だ。
君を、直視できない」


「これは、シャボン玉の時に、つくってもらって、
シャボン玉がちょっとね、あの水玉の衣装だったから作ってもらったんだけど、
踊りがなんといったって激しくて、
もうこのリボンがね何度もとれましたね。
とれるたんびに、つけて、つけてもらってとか、してたんですが」


「僕が、つけてやる。そのリボンが取れたら、僕がつけてやる。
一生、死ぬまで、僕は梨華ちゃんのそのリボンが外れたら付ける、
外れたら付ける、外れたら付ける、そんな仕事を、僕は一生、やってやる。
やってみせる。やりぬくよ、僕は。僕は、奴隷だ、奴隷になるさ。
僕は、リボンを、外れたら、付ける。それだけのために生きる。
君の、美しいその耳たぶに、一生、死ぬまで、ああ、死ぬまで」


「このバラのがね、なんだと思う?
セクシーな大人っぽい感じと言えば、ロマンス。
ロマンスのときに、これを作ってもらいました」


「バラ。バラにはトゲがある。
美しいものには、トゲがあるんだってね。
君もそうだね。僕は君に惹かれて、ずいぶん傷ついたよ。
もはや、大けがだよ。瀕死だ。死に体なんだよ。
君は、僕を殺した。
そうだ、僕はすでに死んでいるのかもしれない。
はん、キザかね? 笑うのかね? わかってるよ。
わかってて言っているんだ。キザだよ。僕は。
笑えよ、畜生め。笑えばいいだろうが!」


「こうやってね、自分なりに、オシャレを、してます。
そして、まあこれもひとつのわたしの、
ファッションの、コレクションとしてあるんですが、
もういっこ忘れちゃいけないのが、
石川さんのピアスと言えばキショイってね、
まあさんざんよく言われてたんですけれども、
こちらが、そんなあたしの、ピアス、です」


「キショイ? キショイって言ったな。
今、梨華ちゃん、君は、自分がキショイといったな!
馬鹿野郎! ついに言いやがったか、ちくしょうめが。べらぼうめ。
君がキショかったら、僕はいったいなんだ? どれだけ、キショイんだ?
畜生。そうやって、嫌味ばかり言うね、君は。僕を、なんだと思っているのだ。
どうせ、どうせ、僕は、キショイんだ。ゴキブリだ。
僕は、カサカサ、カサカサ、せわしなく動き回って、
君の事を観察している、忌まわしくておぞましい、チャバネコキブリなんだ!」


「これもね、まだ、いっぱいあるんですけども、
こんな感じ、もうねえ、入りきらないんだよね、いっぱい。
こんな感じでしょ、こんな感じでしょ、
こんな感じでしょ、うふ、こんな感じでしょ、
もうねえ、いっぱいあるんだけど、まあねえ、
なんかどれを紹介していいかがわからないんだよねえ」


「だから! 梨華ちゃん、君は、馬鹿じゃないのか。白痴だね、君は。
僕が、それを見て、どのような感慨を抱けばいいの?
ねえ、教えて。教え諭して。
ああ、でも君は、かわいいね。
もういいや、君が楽しければ、僕はいいよ。
どうせ、僕の言うことはすべて無視するんだろう?
いいよ。もういいよ。好きにすればいいさ」


「家で、お風呂上りに、わたしいっつもストレッチをしてるんですよ。ね。
ごくごく。んふー」


「僕もね、筋トレなんかを、したりしてたときもあったよ。
ほとんどが3日坊主だったけどね。さっぱりつかないんだよ、筋肉なんか。
だいたい、クソつまらないだろ? 筋トレなんか。単調でさ。
健全な肉体には健全な精神がやどるっていうけれど、
だいたい、そうでもないよね。
やたら、かっこつけたり、貧弱な人間を馬鹿にする奴のが多いよ。
ひどい話だ。そんなぐらいなら、僕は、貧弱な人間として生きるよ。
そう決めたんだ。僕は、健全な精神を宿したいんだ。
君は、あるかい、健全な精神が?
そうだ、梨華ちゃん、君は、『スポーツ爽やか人間』が好きらしいね。
どうやら、僕は脱落したもようだね。
僕は爽やかでもないし、スポーツもできないからね。
わかったよ。死ぬよ。死ねばいいんだろう?
あ、君は、今、レモンシュガー入りの紅茶を飲んだね。
かわいいね、君は。とても可愛らしく飲むね。
僕は、しょうがないから、酒を呑むよ。いいや、呑ませてくれ。
糞! 糞! 糞! 糞! 糞!
どうしてだ! ちくしょう! なぜだ!
僕はなぜ、酒ばっかり呑んでいるんだ!
ちくしょう! 殺せ! 殺せよ! 畜生!」


「まあ、せっかくだから、ね、せっかくだから、
ちょっと、音楽かけて、ストレッチしてみよっか。ごほん、ごほん、んん」


「ああ、梨華ちゃん。僕の目のまえは、すべてかすんで見える。
君は、いま、咳をしたね。
僕は、君のことが、しんぱいだ。
君が、せきをするなら、僕もせきをしよう。ごほん、ごほん。
いま僕と君は、おなじだ。シンクロしている。僕は君で、君は僕だ。
ああ、目のまえが、かすんで見える」


クレイジー、クレイジー、ボーイ、イェー。クレイジー。イェー。


「これね、ビヨンセさんの、アルバム。
を、かけながら、家で、ストレッチをね、ね」


「クレイジーボーイ、それは俺。
ビヨンセって、誰だよ! 知らないよ。僕は。
なんか、変な歌だね。クレイジー、とか、
それはすなわち、日本語訳してみると、気違いってことだよ、梨華ちゃん
ねえ、知ってた?
……僕は、もう期待しないよ。わかっているから。
君が、僕を、見ていないし、言うことを聞いてもいないってことがわかっているから。
気違いだよ。僕は、気違いだ。
ああ、あたまの中が、ぐちゃぐちゃだ。
何も、考えたくない。
僕に、酒をくれ。畜生、酒をのませろ」


「前はね、そこまで柔らかくないんだよ。ほら。
でもね、けっこうストレッチをしないと、硬くなっちゃうから」


「あらら。ストレッチ、しちゃうのね、僕の前で。
それを見せられて、さて、僕は、どうしよう。
とりあえず、酒でも呑もう。ごくごく、ぷはあー。てやんでい、べらぼうめ。
こちとら、江戸っ子でい。
あ、違う! くそったれ! なんで、僕は、埼玉県人なんだよ!
ひどく、中途半端なんだ。
故郷は、江戸か、それでなければ、もっと、青森とか、津軽とか、
そういう田舎であるべきなんだ。格好がつきやしない」



「こうやって、家で、あ、ちょうどね家にもね、
これと同じくらいの白いソファーが、あるんですよ。
ソファーの上では、やんないけど、
今日こうやっておっきい、ソファーがあるから」


「いやん。うれしはずかし、恋せよ乙女。みたいな。
僕のうちのソファーと、同じくらいのが、梨華ちゃんのうちにもあるの?
なんか、嬉しいね、ほのぼのするね。
そしてこの偶然に、何か運命的なものを感じないかい?
梨華ちゃんが、いつか僕の家に嫁にきたら、その白いソファーを持ってきなよ。
そうして、僕のこの白いソファーと向かい合わせるんだ。
一日中、僕と、梨華ちゃんと、向かい合って、ソファーに座ろう。
きっと、楽しいよ。きっと、幸せだよ。
僕は、それがいい。それが、僕には幸せだ。
君と、ずっと、見つめあってさ」


「こうやってね、こっちに足を持ってきて、こうやって。ん。
これ、けっこう、けっこう痛い。ふぅ。
こうやってま、ストレッチを、あん、
しながら、ちょっと(音量が)おっきいよね」


「じゃあ、僕も、梨華ちゃんと同じように、ストレッチをしてみるよ。
こうやって、こっちに足を持ってくるんだね。こうやって。ん。
痛い! いた! 痛い! 畜生! 痛いぞ! 痛い! やめろ、やめろ!
畜生、殺す気か! 畜生! 殺せ! 殺せ! いっそ、ひと思いに、殺せ!」


「はあー。熱くなってきちゃった」


「僕も、熱くなってきちゃった。おかしな所が。
恥ずかしい所が。
だって、僕は、あえて、言わなかったけど、
なんだい、君は、いやらしい声を出して。
はんっ、とか、あん、とか、あえぎ声みたいなのを出して。
やめてくれないか。君は、僕を誘惑しているのか。
やめろ。僕はね、聖人君子になりたいんだよ。
僕は、高い理想を持って生きている人間なんだ。
そのへんの俗物と一緒にしないでくれないか。
馬鹿野郎、やっぱり、君は、梨華ちゃん、君は、淫乱だよ。
接待ゴルフ、さもありなん、だよ。君は、淫乱だ。色魔だ。
君は、男を駄目にする。
僕は、君のおかげで、駄目になったよ」


「で、こうやってね、ちゃんとストレッチを、して、
ほら、こうやって、足をひろげて、
まあストレッチは大事ですから、まあよく、ダンスレッスンとかあるときに、
こうやってちゃんとストレッチをして、ん、
こうやってやるんですよ。こうやってTV見たり」



「もういい! やめろ! やめてくれ。たのむから。
僕は、僕は、もう、駄目だ。不埒な想像で、頭がいっぱいなんだ、
そんなに足を広げるのは、やめてくれないか。
Y字バランスで、もう充分だろう。
もういい、やめてくれ、僕は恥ずかしい。
僕は、どうにかなりそうだ」


「趣味っていうか、一時すごいトランスにはまってて、
まあ家で、大音量でかけたり、移動中に、うふ、
トランスを聴いて、まあ、気分を落ち着かせてたんです、が」


ドンドコドンドン、ドンドコドンドン、ピュピュックピュー。


「これで気分が落ち着くなんて、信じられない。
ひどい音楽だ。下劣だ。やめろ。耳が腐りそうだ。
ああ、でも、僕は、腐っているから。
すでにして、腐っているから。何も言う資格がない。
僕は、クラシックが聴きたい。耳が腐ってしまうよ。
トランスか。僕は、トランスしている。
酒を呑んで、毎日呑んで、トランスし放題だ。
トランス、あまり馬鹿にできたものではない。
よく考えたら僕は、トランスそのものだ。
ああ、トランスを馬鹿にしてごめんよ。
これからは、トランスを聴きながらトランスしよう。
僕は、もう、アル中だ。あこがれの、アル中だ。
退廃だ。デカダンだ。これだ。これこそに、僕はあこがれていた。
体が、酒を欲している。そして煙草を欲している。
僕は、薬品漬けだ。
覚せい剤にも、手を出しそうだ。
マジックマッシュルームなんかじゃ、物足りない。
覚せい剤だ。僕は、覚せいしたいんだ。
僕は、もっとトランス、トランスしたい。
君と一緒に、梨華ちゃん、聞いてくれ、答えてくれ、
僕は、ひとりなのか、僕は、君といっしょではないのか」


「こんな感じで、うふ、気分がノッてくるわけですよ。
これほんとは家ではちょっとたまにね、踊ったりとかするけど、
ちょっと独りだと恥ずかしいからやだ」


「ああ! 梨華ちゃん、君は、いま、言ってはいけないことを言った!
君は、独りなのか! 君は、いま、独りだと言ったな!
僕が、目の前にいるのに! 畜生!
僕は、いないのか! 僕は、虚無か!
僕は、誰だ! いるはずだ! 馬鹿野郎! 畜生!
僕は、死んでいるのか、生きているのか、
僕は、僕は、梨華ちゃんと、梨華ちゃんと、君と、
いっしょに、居るのだと、思っていたのだ」


「うふ、まあ、独りだとっていっても、踊るっていっても、
独りで踊ってるわけじゃないけど、
たまに柴ちゃんと、トランス聞いたり」


「僕は、何者だ。僕は、どこにいる。
僕は、梨華ちゃんと、僕の部屋で、楽しく、会話していると思っていた。
でも、君は、僕の言うことを、ことごとく無視する。
死ねと、君は、言うのか。
僕は、いないほうが、いいというのか。
だから、無視するのか。
君が、主張したいのは、まさにそういうことなのか。
じゃあ殺せ。殺してくれ。僕を殺してくれ。
梨華ちゃんに、殺されたいんだ。
ねえ、梨華ちゃん
僕の声が、聞こえていますか。
僕の声が、聞こえていたら、
もし、聞こえていたら、
梨華ちゃんが、本当に、目の前にいるのならば、
僕の頼みを聞いてくれ。
僕の、最後の頼みだ。
酒は、もう、いらない。
気持ち悪いんだ。
吐き気がする。
梨華ちゃん、僕は、恥ずかしい。
生きていることが、恥ずかしい。
僕は、君のことが、好きだ。
君のことを、愛しているんだ。
だから、お願いだ。
僕の、最後の頼みだ。
僕を、殺してください。
僕を、殺してください。
今、すぐに」