なにしろ僕は、31日の昼、
ハロープロジェクトのコンサートに行ってきたのである。
まあ色々すったもんだがあって、開演に15分遅刻をした。
小走りで会場に入ると、あややの歌唱ダンスがちょうど終わったところであった。
あ、損しちゃった。あやや見られなかった。ちくしょう! 大損だ!
……まあ、いいや。僕は梨華ちゃんを視姦、いや、拝見しにきたのだから。
僕の席は、南スタンド1階C12列8番、ファミリー席だった。
ファミリー席は、立ち上がることができぬ。
だいたいにおいて、ファミリー席とは、
まさにファミリーが、女子供が、ゆっくりとまったりと、
素敵な午後のお茶会でもするような心もちで、
上品にコンサートを眺める席である。上流階級の風情である。
僕の右となりには、若くて可憐な17前後の女の子がいらした。
左となりには、4、5才の幼女。お母さんと並んで座っていた。
僕はここにいていいのだろうか。
そんな思いもちらと頭をかすめた。
24歳のおっさんが、上品なファミリー席で梨華ちゃんを視姦いや、
強姦、ちがう、和姦のがいいだろ。
しに来ているのは、どうにも気持ち悪いと思われる。
僕は、上品な空気に溶け込むために、
「僕は、娘に興味なんかないけど、友達が急遽いけなくなったため、
チケットをゆずってもらい、じゃあ行ってみるか、
どらどら、ハロプロのライブってどんなもんかしら」
という表情、そぶりを前面に押し出し、
どっしり、堂々と、サムライのような威厳をかもしだして、座っていた。
ハロープロジェクトコンサート略してハロコンでは、
あやや、後藤真希、モー娘などの人々が、総出演をする。
誰かが歌っているとき、舞台の端っこに据えられたベンチに、
他の人々が座っている。
たとえばあややが唄っているときは、端のベンチにモー娘が座っていて、
あややを応援している姿が見えるのである。
そんなもんだから、僕は、席に座るや否や、
心臓をバクバクさせながら、梨華ちゃんの姿をベンチに探した。
メロン記念日が唄っていた。
ベンチには、紺野、高橋、新垣、小川などの姿があった。
あれ? 梨華ちゃんは? いないじゃん! どこにも居やしねえじゃねえか!
まさか、今日は欠席しました、なんて馬鹿げたことをぬかすのではあるまいな!
いや、待て。
梨華ちゃん以外にも、ベンチに見当たらない人間はいる。矢口とか。飯田とか。
そうか、これは順番に、ベンチに座ったり座らなかったりするのであるのか。
なるほどね。そりゃそうだね。梨華ちゃん、はやく出ておいで。
恥ずかしがらないで。ねえムーミン。
――30分後。
出てこねえ。いっこうに出てこねえのでやがるから、困る。
いてこましてやろうか。石川の野郎、ふざけやがって。
仕事をしろよ、このクソ女が。クソばっかり垂れ流しやがって。
さっさと出てきて、俺に視姦させろ、そして強姦、いや、和姦のがいいだろ。
なっちの歌唱の番になった。
『恋のテレフォン GOAL』という歌を唄った。
僕は双眼鏡で、なっちを凝視した。むちむちである。
なっち、ちょっと太っているのである。たまらん。ちんこ立ってきた。
さりげなく股間に手をやり、いい感じの位置にナニを調整した。
だいじょうぶ。左隣の幼女には見られてない。右隣の美女にも見られてない。
僕はラストサムライの威厳を、じゅうぶんに保っている。
なっちは、ぴょんぴょん飛び跳ねたりして、きゃぴきゃぴギャル風味である。
かわいい。しかしなっちは、この路線でいくのだろうか。ちょっと心配だ。
なっちのむちむちの太ももを舐めまわすようにして見て、
ちんこを半立ちにさせながら、僕はなっちの将来を切実に心配した。
「わーたしピンクのサウスポー♪」
ダブルユーことW、辻ちゃん加護ちゃんのユニットである。
お二人がご登場。かわいらしい。僕は加護ちゃんが大好きである。
なにしろ、加護ちゃんのおっぱいをわしづかみにしたいのである。
と、あれ? 舞台端のベンチに、何か、可憐な影が見えた。
見覚えのある肢体。いつもお世話になっている肢体。
あの影は、もしやして、これは、石川梨華ちゃんではあるまいか。
双眼鏡で確認。うわあ。居た。うわあ。
梨華ちゃんがベンチに座ってWの応援をしていた。うわあ。
キュン。胸がね、キュンってなっちゃった。
これ、なっちゃうの。しょうがない。
なっちゃったのは、これ、しょうがない。
「梨華ちゃん」
小声で、つぶやいてみた。
しかし梨華ちゃんは僕をシカトした。あたりまえだが。
シカッティングである。現在進行形である。
僕はとても切なくなったので、左隣の幼女を絞め殺して、
右隣の美女をスタンドから突き落として、
「我が生涯に一片の悔いなし! 天皇陛下、万歳!」
と叫び、舌を噛み切って死んでやろうかと思ったしだいである。
僕は、Wに申し訳なく思いながらも、梨華ちゃんの姿を、
双眼鏡を通して、ずっと眺めていた。
居るのか、居ないのか、判然としない。やはり居ないんじゃないか。
我思うゆえに我あり。
ものごとを疑っている「私」は、疑いようもなく存在している。
疑っている「私」は唯一確実に存在している。
その確実な「私」が、明晰かつ判明に認識したものは、
「私」と同じように確実である。
と、デカルトが言っていたらしい。
僕は、確実に存在しているらしい。
梨華ちゃんが疑わしいと考えている僕は、確かに存在する。
しかし、僕は、梨華ちゃんを明晰かつ判明に認識することが出来ない。
僕のお母さんのことは、一点の曇りなく、認識できる。
僕のお母さんと同じくらい明晰判明に認識できなければ、
それは確実とは言えないはずだ。
僕は果たして、梨華ちゃんを、
お母さんと同じくらい明晰判明に認識できているか?
とてもそうは思えない。手ごたえがない。嘘くさいんだ。
なんだか、夢見心地である。
なんとも形容しがたい違和感を感じながら、
僕は梨華ちゃんを見つめていた。
梨華ちゃんを、感じようとした。
どうやったら、梨華ちゃんをじゅうぶんに感じることができるのだろう。
もどかしい。もっと感じたいのに。
見つめているだけじゃ、駄目なのかな。
ライブも後半、そろそろ終わりである。
モーニング娘の出番だ。やっぱり、モーニング娘は、良い。
見ていると幸せな気持ちになる。
ずっと、見ていたいと思った。でも何事にも終わりは来る。
ずっと見ていることはできない。
諸行無常。はかない。梨華ちゃんははかない。
『I WISH』を聞いて、泣きそうになった。
人生って素晴らしい。モーニング娘が歌うと、説得力があるね。
本当に、いつも楽しそうにしているから。
最後、『Yeah!めっちゃホリディ』と『Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜』を、
ハロプロの人たち全員で唄った。
気付いたら、梨華ちゃんは、ほぼビキニ姿であった。
ふともも。二の腕。おヘソ。くびれ。
僕は、双眼鏡で梨華ちゃんだけを追っかけた。
右端に行けば、右端を見て。左端に行けば、左端を見て。
あ、そうだ。視姦するのを忘れていた。
いや、強姦。否、和姦のがいいだろ。
良い肢体だ。ひじょうに良い肢体である。梨華ちゃんとしたい。
興奮してきた。別の意味で大興奮である。
また僕は、ナニをいい感じのポジションに調整した。
ちょっと湿っている。これが例の、がまん汁というやつであろうか。
梨華ちゃんを妊娠させたらまずいので、ここでするのはやめておこう。
舞台まで飛んで、うまい具合に梨華ちゃんのナニに入り込まないとも限らぬ。
すべての出し物が終わり、梨華ちゃんがはけて行く。
舞台から消える最後の瞬間まで、梨華ちゃんを見ていた。
さようなら、梨華ちゃん。
僕は、君のそばに居たんだけど、君は僕に気がついてくれましたか。
いや、いい。やっぱり気が付かなくていい。恥ずかしいから。
見られたくないんだ、僕は。
さようなら、梨華ちゃん。また会う日まで、お元気で。
僕の左隣の幼女とその母親は、とても楽しそうで、幸せそうだった。
ふたりで、ピースサインをくっつけてWのポーズをしたり、
見よう見まねで、ぎこちなくフリまねをしたりしていた。
ああ、モーニング娘が、これからも人を幸せにできる、
そんなモーニング娘でありますように。