桃色の片想い


 僕の片想いは桃色だろうか? たぶんそんな優しい色はしていないと思う。どぎつい血の色か、黄色がかった白か、それでなければ真っ黒だろうな。暗黒だよ。そんな気がする。こんな色の片想いじゃあ、両想いになんてなれそうもない。僕の片想いは、どうやったら桃色になれるんだろうか。


 メインステージにこんこんと雅ちゃんが現れて、桃色片想いを歌った。僕はこんこんソロ→梨華ちゃんソロだと聞いていたので、雅ちゃんがいることに少なからずおどろいた。そして今日は梨華ちゃんは歌わないんじゃないかと思って少なからずショックを受けた。絶望にうちひしがれ、何の罪もおかしていない雅ちゃんに殺意をすら覚えた(冗談ですよ)。すると突然、梨華ちゃんが誰かとともにサブステージ上に現れた。梨華ちゃんの隣にいたのが誰だったのかはちらとも見てないので知らないけど、そんなことはどうでもいいんだ。とにかく梨華ちゃんが姿を見せて桃色片想いを歌いだしたんだ。僕はどちらかと言えばサブステージよりにいたので、梨華ちゃんは結構な近距離にいた。肉眼でギリギリ顔が判別できるくらい。


 双眼鏡で見つめるべきか、肉眼で見つめるべきか、僕は死ぬほど迷った。最後まで残しておいた大トロとウニのどちらを先に食べるか迷う時と同じくらい迷った。双眼鏡で見ると、テレビの映像みたいにのっぺりして見える。でも、梨華ちゃんの細部まで観察することができる。肉眼なら、立体感のある梨華ちゃんを見ることができるし、梨華ちゃんがそこにいるということをそれなりに実感できる。でも、細部までは観察できない。


 僕は結局は、大部分を双眼鏡で見た。梨華ちゃんの存在をリアルに感じたところでどうにもならないと思ったから。むしろリアルに感じれば感じるほど僕は切なくなることに気が付いたから。僕は、双眼鏡で、のっぺりとうつる梨華ちゃんを細部まで観察した。梨華ちゃんのからだは、ありとあらゆる部分がとてもきれいでかわいかった。


 途中、梨華ちゃんは僕の方を向いて13秒くらい歌ってくれた。双眼鏡ごしに梨華ちゃんと目が合って、僕は本当にありえないほど照れた。中学生のときにフォークダンスで好きな女の子と初めて手をつないだ時と同じくらい照れた。いや、それ以上かもしれない。2ヶ月前に、さいたまスーパーアリーナで行われた運動会で梨華ちゃんと目が合ったときよりも照れた(そのときも今回も、実際には梨華ちゃんは僕の目なんか見てなかっただろうけど、合ってたということにさせてよ)。
 僕はきっと2ヶ月前よりも梨華ちゃんを好きになっているんだろう。だから2ヶ月前よりも照れるんだろう。もしこのまま梨華ちゃんをどんどん好きになって、照れが限界を超えたら、僕は一体どうなってしまうんだろう? 究極的には、梨華ちゃんの視線で刺し殺されてしまうのかもしれない。梨華の死線。


 桃色片想いが終わると、ピロリン(恋のテレフォンGOAL)のイントロが流れ出した。梨華ちゃんが両手両足をバタバタさせて飛び跳ねてまさにピロリンをしている! 梨華ちゃんのピロリンはびっくりするほど理想的なピロリンだった。それはあまりにピロピロしていたので、僕は梨華ちゃんにピロリンされてしまった。僕も梨華ちゃんにピロピロしたい。そして僕と梨華ちゃんのピロリン方程式を成立させたい。ゆるぎなく。そしてそのほかにも、チロリン方程式や、リカニー方程式、ふっちニー方程式、サランラップ方程式など、さまざまな方程式を成立させるんだ。そうやって方程式を積み重ねていけば、本当の愛のありようが見えてくるんじゃないだろうか、ねえ梨華ちゃん
 しかして僕が梨華ちゃんにピロリンしようと思ったときには、梨華ちゃんは舞台からいなくなっていた。梨華ちゃん・・・。