スポニチで鬱


 午前6時ごろ、スポニチを買いにコンビニへ行く。梨華ちゃんの特集記事が載っている。梨華ちゃんはピンクが好きだっていうので、記者が悪ノリして、「下着の色もピンクですか」、とか訊いてることに腹が立つ。セクハラ記者は即刻死ね! で、それに対して梨華ちゃんが「プ、それはNGです」と返しているんだけど、なんかそのこなれた感じが嫌だ。なんで慣れているんだ。下着の色とかよく訊かれるのかな。鬱。


 好きなタイプはと訊かれ、梨華ちゃん曰く、「デートで遅刻するような人は嫌ですね。ちょっとだらしない人は・・・」 何? そのデートしたことあるみたいな言い方は? その時点で鬱。それはそれとして、ああ、だめだ、僕は時間にルーズなんだ。遅刻がデフォなんだ。コンサートにも遅刻するくらいだから、梨華ちゃんとのデートにもたぶん遅刻する。そしてだらしない。部屋は常に雑然としているし、服装も超適当だし、とにかくなにもかもがだらしない。そもそも生き方がだらしない。鬱。


 さらに梨華ちゃん曰く、「優しい人かな。あと一緒にいて楽しければ」 だめだ。僕は優しくないんだ。セックスしたことないけど、たぶん独りよがりのセックスをするんだ。梨華ちゃんはパイズリできるような大きいおっぱいを持っていないのに、それでもパイズリを強要してしまうような男なんだ。変態なんだ。道を歩いていても、左折内輪差に巻き込まれるのが怖いから車道から遠い位置を保って歩くんだ。梨華ちゃんに危険な車道側を歩かせてしまうんだ。ていうか、優しさって何ですか? 優しいだろ俺? みたいなあざとい優しさを見せるようなことは僕にはできない。
 そして僕は一緒にいて楽しい人間じゃないんだ。梨華ちゃんと一緒にいたら緊張してろくにしゃべれないよきっと。梨華ちゃんの声を感じることで精一杯で、意味を理解することができないと思う。「いい天気だね」と言われても、なんやわけがわからず、「今日、猫の死体が道路の脇に置いてあるのを見たんだ。きっと車にひかれたんだね。ぐちゃぐちゃだったよ」なんて言ってしまうんだ。やっと口を開いたと思ったらそれだ。どうしたらいいんだ。どうしたら梨華ちゃんを楽しませることができるんだ? 覚せい剤か? そうだ、それだ。僕は覚せい剤を求めて歌舞伎町を歩こう。そしてデートの時には覚醒し、梨華ちゃんを楽しませる。人間やめますか、それとも覚せい剤やめますか。人間やめるに決まってんだろボケが! 人間やめてでも梨華ちゃんに好かれたいんだよ僕は。でも、一時的には優良なピエロとなり梨華ちゃんを楽しませるが、やがて人格が崩壊し、梨華ちゃんに捨てられる。結局はそうなる。なにしろ人間じゃないんだから。透明のゴミ袋にいれられて捨てられる。そして燃やされる。僕は燃えるゴミだ。鬱。


 スポニチを読んで鬱になった僕は、梨華ちゃんの写真集を抱きしめながら眠った。泣いた。泣きたかったから泣いた。そんな気分だった。デートには遅刻しなくて、きちっとしていて、優しくて、一緒にいて楽しい男。そういう男と腕を組んで歩いてデートしている梨華ちゃんを想像したら、涙が出てきた。そういう男とピンク色に染まった部屋でセックスしている梨華ちゃんを想像したら、涙が出てきた。その男はきっと、定時に梨華ちゃんの服を脱がし、きちっとした前戯をし、優しく挿入して、梨華ちゃんを楽しませるんだ。くやしい。くやしい。そんなポパイのマニュアル丸出しの男に梨華ちゃんを取られるのはくやしいよ。でも梨華ちゃんはそんな男が好きなんだ。ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、僕はそんな男には絶対なれない。かなしいよ、かなしいよ。涙が際限なくあふれて流れて落ちた。緑色の枕が黒く染まった。それを見てまた悲しくなって泣いた。エンドレス涙。涙君さよなら。さよならできないよ。梨華ちゃん