さっきも言ったけど、酒の毒素と時の経過によって無情かつ無常にも記憶を喪失しているから、コンサートの内容をよく覚えていない。明瞭に覚えているのは、梨華チュウと巨大な日章旗と梨華ちゃんの素敵な笑顔くらい。思い出せよ！思い出せないよ！ああ、思い出した！
ピンク色のサイリウム、アンコールのときにポキリと折って光らせました。とてもきれいなピンク色でした。ふと周りをみると客席がピンク色に染まっていました。僕は手首をスナップさせて小刻みにピンク色の棒を振りました。「りーかちゃん！りーかちゃん！」ってみんな叫んでいたけれど、僕はここに到っても恥ずかしかったので、心の中で名前を呼びました。「りーかちゃん。りーかちゃん。りーかにー。りーかちゃん」心の中にもかかわらず、大声は出せませんでした。僕はつまり、それほどまでのシャイボーイなのです。ほとんど病気だと思います。自分でも。僕ってヒドス。梨華ちゃんのこと大好きなのに全然がんばって応援しない僕ってヒドス・・・。
梨華ちゃんが手紙を読んだ。「Dear 大好きなみなさん」って梨華ちゃんが言うから僕も、「Dear 大好きな梨華ちゃん。僕は梨華ちゃんの偏屈なところが好きです。梨華ちゃんのアゴのとんがり具合が好きです。梨華ちゃんの黒々とした皮膚が好きです。梨華ちゃんのワキの剃り残しが好きです。梨華ちゃんの細い目が好きです。梨華ちゃんの度の過ぎた平面顔が好きです。梨華ちゃんの奇妙な声色が好きです。梨華ちゃんの禿げかかった頭が好きです。梨華ちゃんのO脚が好きです。梨華ちゃんの糞つまらない与太話が好きです。梨華ちゃんの前歯の裏の黒ずみが好きです。梨華ちゃんの間違った音程が好きです。梨華ちゃんの糞真面目なところが好きです。梨華ちゃんの糞が好きです。梨華ちゃんの苦笑いが好きです。梨華ちゃんの照れ笑いも好きです。梨華ちゃんの嘲笑も好きです。梨華ちゃんの笑顔が好きです。梨華ちゃんの馬鹿みたいに一生懸命なところが好きです。馬鹿が好きです。だから僕は梨華ちゃんが好きです。梨華ちゃんが娘を卒業しても、ずっとずっと好きです」
メンバーから梨華ちゃんへ贈る言葉。梨華ちゃんの涙につられて、僕もじわっときた。僕はしばしば天井に吊るされた日章旗を見上げた。涙がこぼれないように。
最後の曲、『ザ☆ピ〜ス！』を歌い終えた梨華ちゃんは、とても清々しい顔をしていた。その顔からは確固とした自信とゆるぎない決意のようなものが窺えた。「これからわたしはがんばるの。もっともっとがんばるの。みんな、見ててね」そんなセリフが梨華ちゃんの顔に、かわいらしい文字で書いてあった。僕は梨華ちゃんのことをこれからもずっと応援していこうと思った。少しでも支えになってあげたいと思った。少しでも多くリカニーをしてあげようと思った。うは、僕ってウザス。テラヒドス。
会場から出て、夜空を見上げて、「素敵な夜空だね梨華ちゃん、お星様もおめでとうと祝福しているよ梨華ちゃん」と、一人言をいう予定だったんだけど、非常におもしろいことに、夜空を見上げるの忘れた。うっかりんこ。2ヶ月ぶりの生梨華ちゃんがかわいすぎたんだ。卒コンが素敵すぎたんだ。興奮しすぎていて、夜空を見上げる余裕なんてなかったんだ。
そして僕は素敵だったはずの夜空を一度も見ないまま、モ研の人たちと居酒屋に行って朝まで酒を飲んだ。そこで僕はグッズ売り場で買ったトレーディングポスターを開封した。4枚のうち、1枚が梨華ちゃんだった。思わず笑みがこぼれた。ろくでもない人生でも、たまにはいいことがある。で、えりりんも出たんだけど、どうやら僕はえりりんのポスターを踏んでしまったらしい。よく覚えてないけど。まあうっかりだね、酔ってたし。えりりんごめんなさい。今だけ反省している。梨華ヲタヒドス！
