ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

大学


 に行って6限だけ出る。そのあと、7限は出ないことにして喫煙所で煙草を吸う。酒が飲みたくなったのでダメ元でリトル君を誘う。少し待ったら付き合ってくれるということだったので、喫煙所で一人で文庫本を読んで時間をつぶす。そうしたら一人の女の人が僕に声をかけてきた。梨華ちゃんに伍するくらいの、とびっきりの美人だった。


女「こんにちは、ちょっといいですか。ゴスペルには興味ありますか。私の名前はトゥンといいます。韓国人です」
僕「こんにちは」
女「となり座ってもいいですか」
僕「どうぞ」
女「キリスト教には興味ありますか」
僕「まあ、なくはないです」
女「ゴスペルって知ってますか」
僕「まあ、知ってます」
女「日曜日、教会でゴスペルの会があるんですけど、いらっしゃいませんか」
僕「うーん、どうですかね、・・・行けたら行きます」
女「行けたら行きます・・・いかにも日本人らしい答えですね」
僕「そうですかね。僕は韓国人なんですけどね」
女「え? カンコクジン? またまた〜ジョウダンでしょ。あなた日本人でしょ」
僕「まあね、冗談ですよ。日本人ですよ」
女「あの、あなた何年生ですか?」
僕「僕は6年生です」
女「6年生? 大学院生ですか?」
僕「いいえ。学部生ですよ」
女「なんで6年なんですか?」
僕「なんでって、怠けてたからですよ。それだけですよ」
女「年はおいくつなんですか?」
僕「そうですね、僕は18歳です」
女「ええ〜? あなた、そんなことないでしょ。そしたら大学入ったの12歳ってことになるでしょ」
僕「そういうことになりますね」
女「嘘、ジョウダンなんでしょ」
僕「嘘です。冗談を言いました。実は25です」
女「あなた、ジョウダン好きですね〜」
僕「ええ、僕は冗談が好きですよ。三度の飯よりね」
女「あなた、ヘンな人ですね」
僕「そうですか? 普通ですよ」
女「あなた、おもしろい人ですね」
僕「そうですか? つまらないですよ」
女「あなた、ふだんは何をやっているんですか?」
僕「これといって、なにも」
女「6年生ですよね、就職活動はしているんですか?」
僕「いえ、してません」
女「え〜、してないんですか! じゃあ卒業したらどうするんですか」
僕「どうするんでしょうねえ。わかりません、先のことは。何も考えてないです。なるようになります」
女「もったいないですよ。せっかく立派な大学に入ったのに。ちゃんとした会社に入ったほうがいいですよ」
僕「立派ですか。まあ大学は確かに立派かもしれませんが、僕は立派じゃないんですよ」
女「また〜、そんなジョウダン言って」
僕「これは冗談なんかじゃないんですよ。僕は真剣に、ダメな人間なんですよ」
女「ああ、あなた、あれでしょ、小説を書いたりするんでしょう。見た目、文学者っぽい雰囲気がありますよ」
僕「小説なんか書いてませんよ。文学者っぽいですか。雰囲気だけですよ」
女「またそんなこと言って。あなた、ほんとにヘンな人ですね」
僕「そうですか? 普通ですよ」
女「で、あなた、今度の日曜日、忙しいですか?」
僕「日曜日ですか・・・、うーん」
女「どうせ暇なんでしょう。何もすることないでしょう。ゴスペル来てくださいよ」
僕「どうせ暇ですよ僕なんか。ゴスペルねえ・・・、どうしようかな。ところであなた、キリスト教が好きなんですか」
女「ええ、好きですよ。聖書は世界で最も広く読まれている書物ですよ。素晴らしいです。あなたは読んだことは?」
僕「全部読んだことはありません。細切れにはありますけど」
女「ぜひ読んでみてください。それはそれとして、あなた、ゴスペルは来るんですか」
僕「あのう、もし僕が教会行ったら、お金は・・・」
女「お金? お金はかかりませんよ。丸っきりタダですよ。心配しないでください」
僕「そうですか。お金は払わなくていいと。じゃあいくらくらい貰えるんですか」
女「もらえる?」
僕「教会に行ったら、僕はいくら貰えるんですかと訊いたんです」
女「もらえませんよ! 何言ってるんですかあなた!」
僕「なんだ、もらえないんですか。残念、貰えるんなら行くんですがね」
女「あはは、ほんと、あなたヘンな人ですね」
僕「そうですか? 普通ですよ。というか、あなたの方がヘンですよ、むしろ」
女「そ、そうですか? わたしってヘンですか?」
僕「いえ、冗談です。真に受けないでください」
女「もう・・・じゃあ電話番号を教えてください。連絡するので」
僕「へ? なんで?」
女「ゴスペルの件で連絡するので」
僕「じゃあ僕の方からかけますよ電話」
女「それではわたしの番号を登録してください」
僕「それはもう知ってるんで、いいです」
女「なんで知ってるんですか?」
僕「なんでか知らないけど、知ってるんです、いつのまにか」
女「・・・そうですか。あなたはゴスペルには来られないんですね」
僕「行くかもしれないし、行かないかもしれない。誰も行かないなんて言ってませんよ。先のことなんて誰にもわからない」
女「うーん、わかりました。もういいです・・・」
僕「・・・え? あれ? 行っちゃうの?」


 韓国人の美女は振りむきもせず、さよならも言わず、すたすたと歩き去っていった。彼女は僕のことを二度と思い出さないんだろうなと思った。