トイレ


 僕はとりあえずトイレに隠れた。新聞を読みながら小便をした。だけど新聞の内容は頭の中をするすると通り抜けていった。しばらくすると、またあの足音が聞こえてきた。やっぱりまた来た。それは死の予感に満ちた足音だった。僕は死ぬのかもしれない。兄は家の中を歩き回って僕を探している。そしてトイレのドアが破壊的な音を立てた。2度、3度、ボーリングの玉を全力で投げつけるような音がした。「お前なめてんじゃねえぞ」的な罵声を浴びせられた。「さっさと来い! 殺すぞ!」と兄は言った。叫んだ。いや、殺すぞ、とは言ってなかった。捏造した。でも僕はそこに殺意のようなものを感じた。ちんちんは小便を出し切って縮んでいたんだけど、兄のまるで奴隷に対するかのような暴力的な言葉によって、よりいっそう縮んだ。僕のペニスは完全に皮をかむった。それはまるで好き嫌いの激しい小学生の弁当箱に残されたミニソーセージみたいに見えた。どうでもいいけど、村上春樹ってこういう強引でややこしい例えをよくするよね。でも嫌いじゃない。だから今、真似をした。兄は、あきらめて店に戻って行った。