梨の香りは、僕の食欲を、しだいにそそりはじめた。僕はもう3日くらい梨を食べていなかったので、もう食べたくて食べたくてしょうがない。しかし食べなかった。世の中のある種のものごとについて、減るもんじゃないんだからいいと言う人はいるけれども、僕はそうは思わない。すり減らないものはない。消えないものはない。この、今僕が手にしている梨のように。一口でも食べたら、もう元には戻らないんだ。そして、それを食べる前の自分にも、決して戻ることができない。それでもやはり、僕は食べたくてしょうがない。梨が。