ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

美勇伝ファンの集い

 まんまと騙されたようだね。いつも言ってるじゃないか、僕は嘘つきだって。身分証明書がないなんて、そんなドジをふむわけないじゃないか。ちゃんと、大学卒業と同時に住基カードを作っておいたんだ。ただ僕は落ち込んだ様子を見せて、同情や気休めの言葉がもらいたかっただけなんだよ。たまにそういう気分になることがある。すごく寂しくなるんだよ。人から優しい言葉をかけてもらいたくなるのさ。まあ、それだけの話。


 そんなわけで今日僕は横浜BLITZに行ってきたんだ。できる限りおしゃれな恰好をしたよ。まあそれでも、君ほど垢抜けてはいないんだけどね。ファッションセンスっていうのは、持って生まれたものだよね。才能ってのが、どれだけ固定的で、努力を受けつけないものであるかってことは、ファッションセンスの有りようを見れば痛いほどよくわかる。ダサい奴はどれだけ努力してもダサいんだ。センスのある奴は、たとえユニクロでも見栄えよく着こなす。そういうもんさ。だから僕は、オシャレに関しては、ほとんどあきらめているよ。まあ今日は、梨華ちゃんに会うんだし、それでもがんばったけどね。


 ライブはいつものように、最高だったよ。頭がくらくらしちゃったね。まあそれは、周りのファンの臭いがきつかったからっていうのもあるんだけれど。君も一度ライブに来てみればいい。とんでもない悪臭だから。運が良ければ、微悪臭だけどね、それもツイていればの話さ。冗談抜きで。だいたいいつも、梅雨時の満員電車のような、じめっとした感じのいやな香りが、僕の鼻を刺すのさ。参っちゃうよね。君も一度経験してごらんよ。本当に参っちゃうんだから。そんな悪臭を漂わせておいて、そのあと梨華ちゃんと握手するっていうんだから、ほんとクレイジーだよね。でもこれが面白いんだ。彼らにもデリカシーが残っているんだよ。ライブが終わったあと、そそくさとシャツを脱いでね、バンだかエイトフォーだか、やたらにぶっかけ始めるんだ。臭がられたくないってことだよ。あれだけ僕を猛臭で苦しめておいてだ。いやんなっちゃうよね。梨華ちゃんには好かれたいらしいんだ。そのわりに、彼らがどんな顔してると思う? そりゃあもうひどいんだぜ。アイドルのファンっていうのは、ある種の決定的な負の霧につつまれているんだ。僕にも、よくわからないんだけどね。ぬめぬめしてるっていうのかな。汗とか、そういうのもあるかもしれないけど、それだけでもないんだ。ナメクジみたいなんだよ。ナメクジが、僕のまわりをうろついているんだ。いやな臭いを発散しながらね。うまく言えないけど、そんな感じ。僕はそう感じるんだよ。だから君も一度来てごらんよ。言葉じゃうまく説明できないんだ。でも、見れば一発でわかる。百聞は一見にしかずってやつ。まさにね。


 それで握手をしたわけなんだけどね。梨華ちゃんと。かわいかったな、やっぱり。僕は写真で見ても、頭がくらくらしちゃうんだけど、実物は君、とんでもないよ。僕は梨華ちゃんと目が合ったとたん、ノックアウトされちゃったわけだ。6月に握手したときは目、合わなかったけどね、今度はちゃんと合ったんだ。マジマジと見つめてしまった。空気がなくなっちゃったみたいに、息ができなくなったよ。ねえ、わかるかなこの感じ。最高にイカした女と見つめ合ってるときって、冗談抜きで、息ができなくなるんだ。1時間くらい、僕はずっと無呼吸状態だったね。よく生きていられたと思うよ、まったくの話。まあ正直なところ、そのまま死んじまっても一向に構わなかったんだけどね。なにしろ、まさに天国にのぼっちまうくらい、最高に幸せだったからさ。僕は思うんだけど、人が本当にすんなり自殺できるときって、死ぬほど不幸なときじゃなくて、死ぬほど幸せなときなんじゃないかな。まあ僕は「死ぬほど不幸」になったことなんて、ありやしないから、説得力なんてないけれどね。まあ気持ちとして。でね、ここからがすごいんだけど、僕は梨華ちゃんに「梨華ちゃん、がんばってね」って言ったんだよ。若干歯が浮くようだけどね。それは許してほしいな。なにしろ僕は本当に真剣だったんだからね。そして梨華ちゃんは、にっこり笑顔で「ありがとうございます!」ときた。これには参っちゃったよ。感謝されたんだ。シビレちゃうよね。見つめ合っただけじゃなく、コミュニケーション成立だよ。あのとんでもない美人の石川梨華ちゃんとだ。でも僕が少しかなしくなったのは、それが単なるコミュニケーションでしかなかったということなんだ。最低限のね。めげちゃうんだ、こういうのって。なにしろ、聞いてくれよ、僕の後ろに並んでいた奴がさ、「梨華ちゃん、愛してます!」って言うじゃないか。それに対しても、「ありがとうございます!」だよ。君、こういうのって、めげずにはいられないじゃないか。むじゃきに喜んだ自分が馬鹿みたいに思えたよ。僕はまわりの奴らをナメクジだなんだって言ってクソミソにけなして見下ろしていたけど、結局ね、僕も同じようにナメクジだったんだよ。やれやれ、まいっちゃうよね、まったくの話。


 長々と書いたけど、まあだいたいこんな感じだったんだ。最高だったけど、最低な気分だよ。君も一度ハロプロのライブや握手会に来てごらんよ。めげちまうからさ。冗談抜きで。だけどね、ろくでもないナメクジの気分は味わえるよ。なかなか、ナメクジになる機会なんてないんじゃないかな。たとえめげちゃうにしても、一度は経験するべきだと思うよ。それで、最後に一言だけ付け加えておくと、本当は僕は美勇伝ファンの集いなんか行ってないんだ。もし信じてたらもうしわけないけどね、いつも言ってるじゃないか、僕は嘘つきだって。実際のところは、身分証明書が用意できなくて行けなかったのさ。チケットは本当に燃やしちゃったよ。残しておいたってクソの役にも立ちゃしないからね。僕ってこういう間の抜けたところがあるんだ、まったくの話。ほんと、めげちゃってさ。行きたかったんだけどね。行ったつもりだけにでもなりたかったんだ。悪かったね、嘘ついちゃって。申し訳ないと思ってるよ。心の底からね。