行政書士試験


 ちんこのことしか考えられなかった。というのは言いすぎだけど、頭の中の大部分は包茎ちんこで満たされていた。残りの部分は梨華ちゃんが占領していた。法律の知識はそういうのに覆われてしまってぜんぜん浮上しては来なかった。まあたとえ法律の知識が全開になったとしても試験には受からなかったと思うけれど。


 試験会場の東洋大学に向かう途中、道ばたに資格予備校の人たちが立っていて(WASEDAゼミナールとかそういうの)、その中の一つに東京法経学院っていうのがあった。どちらかと言えば可愛い感じの、茶髪の女の子が、パンフレットをさし出しながらにっこりと笑って、「こんにちは! 東京法経学院です!」と言った。「試験がんばってください!」言うまでもなく、包茎ちんこが頭に浮かび、思わず笑っちゃった。やっぱりこの子は、包茎について思いをめぐらせながらパンフレットを配っているのだろうか。こいつは包茎だ。こいつはズルムケだ。こいつはカントン包茎だ。みたいなことを考えてんだろうか。いやらしい。


 試験会場について、トイレに行く。チャックを開けてちんこを取り出してみたら、ため息が出るほど見事な包茎がそこにあった。縮こまっている。皮をむくのに多少苦労した。別にむかなくたっていいんだけど、なんとなくむかなければいけないような気がした。小便を終えたあと、ちんこをしまったわけだけど、なんだか納まりが悪くて、むずむずした。席につくまで、股間をいじりながら歩いた。


 試験中ずっと包茎について考えていた。記述式の問題が、べらぼうに難しかったので、何も書かないよりはましだと思い、東京包茎学院って書きそうになったくらいだ。でもそれを正確に漢字で書く自信がなかったので止した。そのかわり、石川梨華って書こうかなと思った。この漢字だけは正しく書く自信がある。だけど僕は結局書かないで空白のままにした。だって、たとえ地球が逆回転したって、石川梨華っていうのが正解になるわけはないんだもの。これは行政書士の試験だ。法律の試験なんだ。ほぼ100%不正解になる。そこで僕は思った。僕が梨華ちゃんと結婚できる可能性も、これと同じくらいなんだろうなって。思いもよらないところで、けっこう絶望的な気持ちになったよ。梨華ちゃんと結婚したいだなんて、行書の解答欄に石川梨華と書くのと似たようなものじゃないか。当然にバツなんだよ。疑う余地ないんだ。ほぼ100%不正解。


 帰り道、また東京法経学院の人がいた。男の人ははりきって「包茎」を連呼していたけど、こんどは女の子は微妙な笑顔を浮かべて通りの人を眺めているだけだった。やっぱり「包茎」なんて言葉は口に出したくないんだろうなと思った。