「もうすでにこの世界は暗黒に包まれているんだよ」

が口癖の父親に、仕事の手伝いを頼まれる。とある書類の校正を。やれやれ。気の休まるときがないよ。リカニーしてるときくらいしかない。


それを30分くらいやって、バイトへ向かう。
駅について5分くらい時間があったので、煙草を吸った。吸いおわった後、切符を買おうとしたんだけど、何故か煙草を買っていた。あれっ、俺ッ、なにしてんだろう? 煙草はさっき買ったばかりじゃないの。切符だろう、今買うべきなのは。1、切符を買う。2、電車に乗る。3、モンテローザに行く。簡単なことだ。誰でもできる。落ち着くんだ。
切符を買ったけど、バイトに間に合うぎりぎりの電車を逃した。5分前に駅についてたのに、なんでだろう。気付いたら5分すぎてた。時間の進みかたがおかしい。確かに、無駄に煙草を買った。だけどそれは致命的な時間のロスではないはずだ。おかしい。僕は数分間気を失ってたんじゃないかな。じゃなきゃ5分前に駅について電車を逃すわけがない。まいったな。このバイトで遅刻するなんて初めてだ。


電車から降りて改札に向かう途中、少年が背後から猛烈に走ってきて、僕の脇をすり抜けていった。それから少年は前方で人に軽くぶつかり、何かをポトリと落とした。それは財布みたいに見えた。僕の2メートルくらい前に落ちている。少年はそれに気付かずどんどん突っ走っていく。声をかけようと思うが、人ごみで大きな声を出すのが恥ずかしく思われ、どうしようか激しく混乱した。財布まであと50センチというところで、僕の背後から「おい、少年!」というおっさんの声がしたので、財布を拾うのはそのおっさんに任せようと思った。僕は財布を跨いで通り過ぎた。気になったので振り返ると、おっさんは少年に財布を渡していた。僕はおっさんと目が合った。おっさんは僕のことをものすごい恐ろしい目で見ている、ような気がした。梨華ちゃんもここにいたらきっとそんな目で僕を見るだろう。死にたい、と思った。