『ふっち君の夢が1日も早く実現するよう祈っています』

 博士号取得間近の小春ヲタさんから年賀状が来てたんだけど、それを親が見たらしくて、いたたまれない事件が発生した。でも僕はなんとかいたたまったんだけど。まあいいや。とにかく、僕は今日もいつものように、母親からチクリと言われたわけだ。「あんた就職活動しないの、モンテローザでバイトしてたって何も始まらないでしょ、むしろあんたのカラダはそしてココロは削り取られていくばっかりでしょ、せっかく早稲田出たんだし、就活するべきでしょあんたはやっぱりどう考えても。もう26になるんだし」


 26! 26でフリーターもしくはニート! それはひどい。だけど僕はもう、なんか、就職活動とか、そんなことは全然考えられないので、その場しのぎのことを言った。「就職活動は、いずれする。たぶんする。いまは企業研究に没頭している。世の中には色んな企業がある。モンテローザとか、NHKとかがある。いまはモンテローザを研究している。まだ研究は終わらない。NHKとかも控えてるし、すべての研究を終えるにはまだ時間がかかりそうだ。就職活動はそれが終わってからだ。いまはまだその時期じゃない。それはわかってくれるねマダム?」的なことをしゃべくり、お茶をにごした。


 そんで洗面所で顔を洗っていたら、父親が鏡の中にあらわれ、僕に話しかけた。さっきの話を聞いてたらしい。
 「なんだお前は。いったいどうしたいんだ。どこに向かって歩いているんだ。その道はちゃんと舗装されているのか。それともどろんこロードなのか。俺はそのことが気にかかる。できれば舗装路を歩いてほしいんだがな。でもな、お前があえてどろんこロードを選ぶというなら、俺はそれに反対はしない。むしろ応援する。年賀状で、Leaderさんという人が書いてたな、『ふっち君の夢が1日も早く実現するよう祈ってます』ってさ。お前には夢があるんだな。何だ、何になりたいんだ。ゲイバーの支配人か、それとも風俗のポン引きか。あるいは総理大臣か。それは知らんけれども、夢というからには舗装路なんかじゃなくてどろんこロードだろうな。それを目指すなら、きっと辛い道のりになるだろうけど、俺は応援するぞ。お前の人生だからな、お前が決めることだ。俺がそれにとやかく言う資格はない。がんばれよ。どろまみれになっても、けして諦めるな。お前はお前の信念にしたがって生きろ。お前の信じる道を突き進め」


 いや、感動的なことを言う親父だね。まいった。尊敬するよ。でもお父さん。僕の夢が何だか知ってる? 知ってたらそんなこと言えないだろうね。だってとんでもない夢なんだもの。ありえないんだ。どろんこロードなんか目じゃないね。一歩あるくたびにHPが100ずつ減っていくような新種の毒の沼地だよ。バリン、バリンってすさまじい音がするんだ。僕はもう2、3歩足を踏み入れたわけだけど、もうすでに死にそうだよ、瀕死なんだ。白い枠がオレンジ色になってる。ねえ教えてあげようか、僕の夢を。


 僕の夢はね、お父さん、石川梨華ちゃんと結婚することなんだよ。面白いでしょう。想像を絶するよね。さすがにそれはないだろって、お父さんは止めるかもしれないね。でも僕はいまさら踵を返すことはできない。二度と戻れないんだ。その分岐点は通り過ぎちゃったんだ。それは過去の領域に属しているんだ。僕はもはや、この道を進むしかないわけでね。ふっち君はしんでしまった!というメッセージが出るとわかっていても、このままこの道を進むしかないんだよね。


 だけど僕はそんなに絶望的な気持ちにはなってない。なにしろ僕はそれでも一歩一歩、夢に近づいているんだから。そうだよね? そうだろ?