フットサル観戦記(1月22日作成)

 18日、馬場で酒を飲む。帰るつもりだったけど帰れなくなったのでしかたなくark君の家に泊まる。最近生活リズムが一周して朝7時くらいに起きるようになっているから、すぐ眠くなって、酒もそこそこに午前3時すぎには寝た。

 19日の朝、喉の渇きで目をさます。明らかに二日酔いだった。あたまがズンズン痛んだ。麦茶をがぶがぶ飲む。煙草を吸うと、なんか変な味がした。煙が舌にからみついて非常に不快だった。でもニコチンがないと気が狂いそうになるので不味さを我慢して吸った。

 それから回転寿司を食べに行く。13皿食べた。おいしかった。あと20皿くらいはいけそうな気がした。最近病的に食欲があって、少々困る。

 ark君の家に戻る。途中で買ったココアを飲んでいたら、「ゴキュンゴキュン音を出して飲むのはやめてください」と言われる。しかし、出さないように注意して飲んでも、どうしてもゴキュンっていういやらしい音が出てしまう。恥ずかしかった。僕はなにしろ、体から出てくるそういった生理的な音を聞かれるのが、すごく恥ずかしい。それから、満腹になったし、他にすることもないっていうんで、寝ることにする。

 駒沢大学までフットサルを見に行くので、午後4時ごろに起きた。でもつい二度寝をしちゃって、再び目をさましたときには午後5時だった。急いでコンタクトを入れて、ark君の家を出る。ヒゲがのびていたけど、そる暇はなかった。梨華ちゃんにこのヒゲ面を見られたら、恥ずかしいなあ。

 駒沢大学駅に午後6時に着く。催しが始まるのは6時半。よかった。間に合いそうだ。だけど僕はいつものとおり、道に迷った。寒さと不安と切なさで泣きそうになった。しかたなく駅に引き返して、地図をよく確認してまた歩きだす。ほとんど奇跡的に会場にたどりつく。6時半すぎだった。大明神のkoasaさんからチケットを受け取り(ありがとうございます、遅れてしまって本当にすみません)、会場に入る。開始時間が遅れているようで、まだ何も始まってはいなかった。ほっと安心した僕は席について、ありとあらゆる妄想をくり広げながら、始まるのを待つ。会場の中はとても寒くて、心まで凍っていくようだった。

 しばらくして、メンバーが一人ずつ未知の領域から飛び出してくる。カレッツァの乳がでかい面々が次々に出てきて、ああ、でかいなあ、乳が。と思った。ガッタスヲタの人たちも乳がでかい面々に手を振ったり、うおぉぉぉいとかいう声援を送ったりしていて、そういうのがなんか僕を苛々させた。相手チームもあたたかく応援するのはとても素晴らしいことだと思うけど、その良心的な行為の中にある何かが、僕を腹立たせた。カレッツァチームのメンバーのなかでは、野田社長に対する声援が一番大きかった。なんか知らないけど、そういうやっとけやっとけみたいな白痴的ノリが神経にさわった。

 そしてついにガッタスのメンバーが出てくる。みんな久しぶりに生で見たけど、変わらず元気そうだった。梨華ちゃんは最後のほうに出てきた。21歳なりたてほやほやの梨華ちゃんは、昔のベッカムを彷彿とさせるチョンマゲスタイルだった。梨華ちゃんにちょんまげはあまり似合わないなあと思いつつも、いつもとほぼ変わらぬ3時のおやつのホットケーキ的きゃわいさを、思わずいますぐここで自殺してしまいたくなるほど発揮していたので、僕は梨華ちゃんを自分の視線で刺し殺してしまわんばかりの勢いで凝視した。でも結局は、誰も死ななかった。素敵なことだと思う。いまもこうしてみんなが生きているっていうのは、なにものにもかえがたいことだ。なにしろ人生って夢と希望がつまっていて、とてもとても素晴らしいものだからね。

 梨華ちゃんがコートをかけまわっている間、ヲタの人たちが「梨華ちゃああん、誕生日おめでとおおおお!」とか口々に叫んでいた。僕はその声を聞いていてとても不愉快な気持ちになった。梨華ちゃんに対するアピールとか、優しさとか思いやりとか愛情とか、そういうの全部ゴミ袋につめて荒川下流に投げ込みたいと思った。たぶん二日酔いと馬鹿げた寒さのせいだと思うけど、そういう何もかもが癇にさわった。「梨華ちゃん、おたおめ!」とか言い出すくそったれがもしいやがったら、そいつの頭を叩き割りたいという気持ちに、間違いなくなったと思う。

 いよいよ試合が始まる。梨華ちゃんはベンチスタートだった。梨華ちゃんはたぶん体をあたためるために、終始ピョンピョン飛び跳ねていて、それがじつに可愛らしかった。まわりのヲタに対する憎悪とか殺意みたいなものは、その可憐な飛び跳ねによっていくらか減退した。だけどやっぱり一定の間隔をおいて「梨華ちゃあああん」という声が上がり、そのときは憎しみや嫉妬が心の中をヒットラーばりに支配した。僕の梨華ちゃんに気安く声かけてんじゃねえよお前。
 いや、よくない、そういう考え方は正しくない。歪んでる。梨華ちゃんはみんなの梨華ちゃんだから、誰だって梨華ちゃんに声をかける権利はある。
 しかしながら僕はやはりそんな権利はいっさい認める気になれず、非人道的で非倫理的なセリフが次々と湧いて出てくるのを押しとどめることはできなかった。僕の梨華ちゃんを気安く応援してんじゃねえよ、お前。
 もし僕の手にどくさいスイッチがあったら、僕は会場の人間をほとんどすべて消し去っていただろうと思う。そして後悔なんか、もちろんしない。のび太は後悔してファッキンドラに泣きついたけれど、僕だったらしない。罪のない人びとを無情にも消し去ったまま、のうのうと生きる。ざまあみろくそったれどもが。いい気味だ。って言ってね。

 それで僕は試合を観るべきかベンチの梨華ちゃんを見ているべきかで、非常に悩んだ。礼儀として、試合を観て応援するのが本当だとは思った。だけどフットサルよりもむしろ僕は梨華ちゃんを見にきたんだし、梨華ちゃんを見るのでなければ意味がない。
 とりあえず僕は7対3の割合で、それぞれ試合、梨華ちゃんを見ることにした。そうしたらあっち見たりこっち見たりでだんだん目が疲労してきたし、試合の流れもつかめなくなった。もっと悪いことには、点が入ったときに梨華ちゃんの感情がダイナミックに切り替わる瞬間を、ことごとく見逃すことになった。点が入って、ああ、やったぞ、と思って、梨華ちゃんを見やったときにはすでに喜んでいる。僕はこう思っていた。梨華ちゃんの感情が燃え上がる瞬間をとらえて、その転換のダイナミックさを目視・体感することによって、梨華ちゃんの感情のありよう、その成り立ちをもっと深く理解することができるんじゃないかと。だからけっきょく僕は試合は見ずに梨華ちゃんだけを見つめることにした。

 そしたらコーチ的な立場の見るからにDQNな男、わかりやすく言えば僕の兄とまったく同じ種類のDQNが、隙あらばイッツオーライみたいな感じで、ちょこちょこ梨華ちゃんに話しかけていた。なんらかの指示をしてるようだったが、無理くりだろお前、って思わずにはいられなかった。別に必要もない指示を、むりやりでっちあげてるに決まってる。だって僕だったらそうするもん。梨華ちゃんと話をしたいがためにね。
 「石川、いいか、あさみがボールを持ったら、サイドをかけ上げれよ、滝君のようにだ、わかったな?」
 「ちょっといいか、石川、さっきの話だけど、サイドと言うのは、右サイドのことだ。左じゃない、右だ、わかるな?」
 「ちょっといいか、石川、説明の不十分な部分があったから、一応言っておくぞ。滝君というのは、キャプつばに出てきた脇役のことだ。わかるな?」
 って、ふざけたことやってんじゃねーよコーチ。僕の梨華ちゃんに気安く指示してんじゃねーよ。マジで消すぞ、どくさいスイッチで。何? コーチ連はなんなの? なんで男なの? くそ腹立つんだけど。客のいる前でこれだけ話してるってことは裏じゃあられもないことになってんじゃないの? 勘弁してよ。勢いあまって夜のコーチとか、そんなの絶対、ぜったいゆるさないからな。

 僕は後半、そんな梨華ちゃんを見てずっとハラハラしていた。もっと離れて、ちがう、そこじゃない、こっち、よく周りを見て、スペースをつく動きをして、ちがう、うん、そう、そうだよ! そっちでいいの。できるだけ離れて。そのまま、そのままね。おい! お前、そこのDQN銀髪耳ピアス、近づいてんじゃねーよ、離れろよ梨華ちゃんから! は、は、話しかけてんじゃーよ、また指示か、また要らぬ指示か、こんどは日向君の話か! 大概にしろよお前! どくさいスイッチ押されてえのか!

 そんな風に、僕なりの酷いやり方で観戦をしていたら、あっという間に試合が終わった。たぶん3対3でPK戦に突入した。
 それまでの試合内容で覚えているのは二つだけ。梨華ちゃんがサントス・アレッサンドロばりのアシストを見せたことと、梨華ちゃんが相手チームの6番に削られ倒されたことだ。6番の選手に僕は怨念を送った。
 PK戦に入り、最初によっすぃーが蹴り、得点をし、次は梨華ちゃんが蹴った。今日は梨華ちゃんの誕生日だし、勝たせてあげたいと思った。梨華ちゃんに点をとらせてあげたい。僕は、まわりのヲタの声援を耳障りに思いながら、梨華ちゃんに強い思念を送り込んだ。入る、入る、きっと入る、梨華ちゃんならだいじょうぶ、梨華ちゃんならがんばれる。がんばれ、がんばれ梨華ちゃん、負けるな梨華ちゃん! でも、だめだった。梨華ちゃんの放ったシュートは、大きく枠を外れて宇宙を開発した。へたりこんで泣き顔をにじませる梨華ちゃん。でもしょうがないよ、これだけゴールを期待されてたら、大きなプレッシャーになっちゃうものね。ごめんね、僕もおかしな思念を送ったりしなければよかったね。梨華ちゃんが外したのは、主に僕のせいだと思うから、梨華ちゃんは何も責任感じなくていいんだよ。梨華ちゃんは精一杯がんばったもんね。

 結局ガッタスは負けちゃって、梨華ちゃんの誕生日に華を添えることはできなかった。「残念だけど、勝負なんて時の運だし、これはしょうがない。それに梨華ちゃんの誕生日は、その日が梨華ちゃんの誕生日であるという事実だけで、じゅうぶん華々しくて素敵なものだよ。だって梨華ちゃんっていう世界でいちばん華美で素敵なひとが、この世に舞い降りた日なんだからね。他には、何もいらないんだ」僕は、悔しがる梨華ちゃんに心の中でそう語りかけた。

 帰り道、心が凍死しそうになるほど寒かった。歩けば歩くほど梨華ちゃんから遠く離れていくことが切なくて悲しくて、涙が出てきた。コンサートやイベントに行って、帰る。行って、帰る。その繰り返しで、僕は僕の望むところに辿りつくことができない。回数を重ねるたびに梨華ちゃんは遠ざかっていくような気さえする。そして僕の憎しみや嫉妬や苦しみや奇形の愛情はどんどん肥大化していく。僕はこういうのを、いますぐ終わりにしたい。耐えられない。終わりにするには死ぬしかないんじゃないかと思う。いったいほかに、どんな方法があるっていうんだ? 梨華ちゃんの誕生日が終わるその瞬間、時計の針が12時を回るときに僕が思っていたのは、死にたい、ただそれだけだった。冗談抜きで。