ハロプロコンサート

 モンテに呼び出しをくらっていたので、横浜アリーナへ向かう途中で店に寄る。2月からどうするかということを少し話した。僕は「資格試験の勉強をしているので、多くても週4日でお願いします」と言った。だけどなんか曖昧な返事しかもらえなかった。じつに不安だ。もしこの希望が通らないようであれば、即刻やめてやろうと思う。というかそもそも働きたくない。もうしばらくニートがやりたい。金ならある。だんだん減ってきたけど。

 横アリに向かう電車にのる。途中で、開演時間を勘違いしてたことに気づく。6時半だと思ってたのが、じつは6時だった。でも30分前行動を僕はしていたので、なんとか間に合った。よかった。それにしても、横アリは遠い。

 新横浜駅を出て、横アリ目指して歩く。僕は確実に、一歩一歩梨華ちゃんに近づいているんだ。そう思うとなんか変な感じがした。現実の枠組みが歪んでいくような感じがした。夜の闇が不均一で、ゆらゆらしていた。ガクランを着た人が前から歩いてくるのが見えた。胸に巨大な布をぶらさげている。あれはタペストリーっていうのかな? とにかくその布にはえりりんが印刷されてる。にっこり笑ってる。彼とすれ違ったあと、僕の後ろを歩いていたヲタが失笑しながら言った。
 「ガクランにあれはない。なんでガクランなんだよ」
 あれがナシだとしたら、じゃあいったいどういうのがアリなんだろう。僕はアリなんだろうか。それともナシなんだろうか。

 横浜アリーナに入って、席にすわる。ファミリー席。でもファミリーなんかほとんどいないみたい。おいここはファミリーが座る席だろうが。お前らみんな立ち去れよって思ったんだけど、よく考えたら僕もファミリーじゃなかった。まあとにかく、けっこう花道みたいのから近くて、良い席だった。
 僕の後ろの席にアベックらしき男女が座っていて、梨華ちゃんの出現位置について議論していた。東から現れるのか、西から登場するのか、北か、南か、東南東か、みたいな議論だった。かなり白熱していた。「梨華ちゃんは・・・」「いや、だから梨華ちゃんは・・・」って、梨華ちゃんという単語が出てくるたびに、僕の胸はきゅんとなった。けっきょくその議論は、結論に到達しないまま、大音量のへんな音楽によって打ち切られた。梨華ちゃんはどこから出てくるんだろう。

 最初は直感2という曲をみんなで歌った。たぶん直感だったと思う。僕の直感によれば。1かもしれないし3かもしれないけど、おそらく2のほうじゃないかと思う。僕は僕の直感によってすぐさま梨華ちゃんを探し当てた。梨華ちゃんは左のほうに居た。方角的に言えば、たぶん南南西だと思う。西南西かもしれないけど、どちらかと言えばやはり南南西だった。梨華ちゃんの居場所をつねに指し示すコンパスがあったらいいのに。と思う。便利だろうなあ。それで、僕は双眼鏡をかまえて、梨華ちゃんを凝視したわけだけど、超かわいかった。とにかくかわいかった。むちむちしててちょっとエロかった。梨華ちゃんの後ろすがたは、なにしろ最高なんだ。ひと目みて、あ、いい女だなって思う。細すぎず、太すぎない。黒すぎず、白すぎない。髪はさらさらで、いい感じの光沢を放っている。でもそういう場合、だいたいにおいて、振り向いたときにがっかりすることになる。しかし梨華ちゃんは期待を裏切らない。裏切らないどころか期待以上のものがそこにはあって、僕はおどろき、なかば呆れ、ため息をついてしまう。そのようにして僕は、梨華ちゃんが振り向くたびにため息をついた。終わるまでに100回くらいついた。はあ・・・。梨華ちゃん。りかりん。

 直感2のとき、ハロプロのみんなが花道をぐるぐるまわった。そのとき僕はなんだか夢の国に来たような気持ちになった。とにかくわくわくした。ずっとこの国に僕はいて、かわいい女の子たちとわいわいやりたいと思った。わいわい。毎日パーティーする。お酒飲んで、カラオケやって、人生ゲームやって、遊びつかれたら、梨華ちゃんと一緒に家に帰る。固定資産税とかそういうのとは無縁の、お菓子で出来た家。テレビをつけると、必ずドラえもんがやっている。どのちゃんねるでも、現れるのはドラえもんホリエモンなんか出てこない。デイトレードなんかやってる人は存在しない。営業もない。センター試験もない。卒論もない。モンテローザもない。僕はドラえもんを見て、それに疲れたら、梨華ちゃんといっしょに寝る。セックスはしない。セックスのやり方なんて誰も教えてくれない。だからそんな行為の存在は誰も知らない。りかりん、好きだよ、大好き。って言って、梨華ちゃんの小さな手をにぎって眠る。

 梨華ちゃんは、僕の目の前の通路をたびたび通過した。でも最後まで、立ち止まることはなかった。梨華ちゃんが近づいてくるたびに、とまれ、とまれって思うんだけど、ぜんぜん止まらない。毎回逃げるように去っていった。ちょ、待てよ! っていう感じだった。ほんとに。なんでだろう。梨華ちゃんに嫌われてるのかな。そしてどうして僕は小川にこんなにも好かれるのだろう。

 最後、さよならの挨拶をしに梨華ちゃんがやってくる。にっこり笑い、手を振って歩いてくる。僕も手を振りたかったけど、なんか恥ずかしくてできなかった。僕はほんとうは、みんなみたいに、立ち上がって、手をめいっぱい振って、「りかりん! りかりいいいいん!」って、思いっきり叫びたかった。「だいすきだよおおおおおおおおおおお!」って。でもそんな勇気ないから、心の中で思うだけだった。それでも僕は、どうか梨華ちゃんに伝わるようにと、つよくつよく、これ以上できないくらいつよく、梨華ちゃんのことを想った。好きだよ、梨華ちゃん。大好きだよ。