ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

世界の終わりと子持村

 つづき。家を出た僕は、人がもろくそ乗った電車に乗って、馬場に向かった。世界の終わりを思わせるような混みようだった。ほとんど動けなかった。窓際の人はいまにも押しつぶされて死んでしまいそうに見えた。頭が割れ、脳みそが飛びちる。そこにチルチルとミチルが人びとを刺し殺しながらあらわれ、あら、脳みそだわ、おいしそうと言って手にさげた籠に脳みそをどんどん詰めていく。世界の終わり。人ごみのなか、頭一つ突き抜けて背の高い人がいた。死ぬほどまずいものを我慢して食べてるみたいな顔をしていた。世界の終わり。僕はこんなときこそ、笑わなくちゃいけないんだと思った。泣いたって笑ったってどうせ世界が終わるのならば、笑ったほうがいいじゃないか。楽しい気持ちになる。幸せになる。周りのみんなも幸せになる。僕はなにしろいついかなる時だって自由自在に笑うことができる。微笑むことができる。それはいやらしい、変態的な笑みかもしれないけれど、とにかく笑うことができる。梨華ちゃんのことを思い浮かべればいい。僕はミチルのコスプレをしたりかりんを目の前の作りだした。僕は笑うことができた。世界の終わりだって? それがどうしたっていうんだ? 関係ないね。終わりたいなら勝手に終わればいい。僕には梨華ちゃんがいる。笑うことができる。終わったあとだって、笑ってみせるさ。

 しかしながら、結局のところ、世界は終わらなかった。時間通りに馬場についた。そうすると、受験生のみなさん、こちらへ、こちらですよ、というような声が聞こえてきたので、僕はそちらに行きそうになった。僕は基本的に、主体性がないんだ。流されやすいタイプなんだ。そしてすぐに論破される。僕は早稲田大学社会科学部の試験を受けなくちゃならないのか。どうしてだろう。この前、二文を卒業したばかりなのに。どうして。あなたはニートだから。働く気がないのだから。働くのでなければ勉学に励まなくてはならない。向上心のない奴は馬鹿だ。僕は誰ともわからない人に完全に論破されて、学バスに乗りそうになった。だけど、今日は合宿があるということを思い出して、受験するのはやめた。そもそも受験票もってない。持ってたとしても受かる学力がない。僕はBIGBOX前に行って、モ研のみんなと合流した。僕はなんとなく、いたたまれない気持ちになった。まわりには受験生がいて、目の前には大学生がいた。僕だけが違う人種だった。ニートだった。僕はなんでこんなところにいるんだろう。僕はこんなところで、なにをしているんだろう。何を求めているんだろう。しかしながら、そうと言って他にいるべき適切な場所もなかったし、するべき適切なものごとも考えつかなかった。世界の終わり。どうして世界は終わらないんだろう。いつまでこんなことが続くんだろう。僕はいったいどこへ行ったらいいんだ? とにかく今は草津に行くしかないみたいだった。草津草津ってどこだ? 群馬県にあるのか? 群馬にいって、何がどうなるっていうんだ? 世界で一番なにも起こらなさそうなところだな。そんな気がする。梨華ちゃんだってきっといない。梨華ちゃんは、コンサートで行く以外は絶対いかないんじゃないか。だけど今さら群馬は嫌だとも言えず、レンタカーに乗って出発した。まあいいや。どこでも。

 最初の運転は、むじん君だった。19歳のむじん君は怖いもの知らずだった。アイルトンセナも顔負けのコーナリングだった。スピードもめいっぱい出した。だけど事故りそうな感じはぜんぜんしなかった。それで僕は安心した。安心? どうして安心するんだ? 僕は崖から落ちて死ぬのを期待していたはずなのに。

 群馬に入ってしばらくすると、不愉快な気持ちになった。こもちという看板が見えたからだ。こもち? 僕は不可避的にもこみちを連想した。梨華ちゃんがもこみちと結婚して子持ちになったところを想像した。梨華ちゃんのこども。かわいいんだろうな。もこみんの遺伝子も入ってるもんな。たぶんくろんぼだろうけど、すごくかわいいんだ。でも僕はほのぼのとした気持ちにはぜんぜんならなかった。むしろ殺伐とした気持ちになり、世界の終わりについて考えた。こんな場合、とてもじゃないけど笑えない。なぽハムから電話がかかってきたけど、出なかった。彼はきっととんでもないことを言うに違いない。嫌な予感がした。もこみんと梨華ちゃんがフライデーされちゃったよ、ふっちさん、どうすんの、たいへんだね、死んじゃだめだよ、ふっちさん。ふざけんな、そんなの死ぬに決まってんだろうが。世界が終わってくれないなら、僕が終わらせてやる。こもち。最低最悪の地名だ。地盤沈下すればいいのに。きっと素敵な湖ができる。とても大きくて暖かい湖がね。世界に自慢できるような名所になりそうだ。自殺の名所に。つづく。たぶん。