海の見えるところ

 僕ら5人は日産キューブに乗り込み、ノープランの旅に出た。車中で、美勇伝スイートルームナンバー1を聴いた。すると、ほとんど不可避的に勃起してきた。梨華ちゃんの声が、僕の股間をなでまわしてくるのだ。梨華ちゃんの声は、だんだん形あるものとなってきて、手となり、口となり、最終的には膣になった。これは、膣ではなかったけど、同時に、膣以外の何ものでもなかった。僕は膣というものがどういうものかぜんぜんわからないわけだけど、これは膣だと、直感的に思った。僕は梨華ちゃんの膣に温かくそして優しく包まれながら、窓の外のうさんくさい街並みを眺めた。むじん君は、あいかわらず殺人的な運転を続けていた。いっそ殺してくれよ、と僕は思った。もう僕は死んだってかまわないんだぜ。何もかもどうでもいいんだ。でもそのわりには、僕の手足は硬くこわばっていた。車がどこかに激突する。僕の頭がフロントガラスにぶつかって割れる。脳みそが飛び散る。そういうのを想像すると、怖くてたまらなかった。死にたくない。でも死にたい。

 海の見えるところに行きたい。そう僕が主張すると、みんな受け入れてくれた。そうだね、海へ行こう。論破はされなかった。論破しようと思えばできたけど、ふちりんごときを論破したところで何の自慢にもならない、ということだったのかもしれない。まあいずれにせよ、海に行くことになった。

 沼津港につくと、そこには海が見えた。海水は緑色だったし、カモメも魚もいなかったけど、海は海だった。僕はpieko、じゃなくてaikoの例の曲を思い出しながらテトラポットに登った。テトラポットを渡り歩いていると、わんぱくだった少年時代を思い出した。すると、グレートサイヤマンがわんぱくなことをやりはじめた。枯れたクリスマスツリーみたいな流木をひっぱりあげて、それをまるで占領軍の旗みたいに石と石の間に突き立てたのだ。むじん君はそれを満足気にひとしきり眺めたあと、テトラポットの上をぴょんぴょん飛びはねて陸まで戻った。僕も、もうちょっと若かったら、彼のようになれたんだろうなと思った。グレートサイヤマンに。

 ずっと遠くの方の岸には、梨華ちゃんの姿が見えた。すぐそばには彼氏がいた。もこみちかもしれない。僕は梨華ちゃんに手を振ったけれど、梨華ちゃんは手を振り返してはくれなかった。りかりんはテトラポット登っててっぺん先睨んで宇宙に靴飛ばしていた。梨華ちゃんには、ちゃんと彼氏がいるのだ。もこみち的なかっこいい彼が。そして僕と梨華ちゃんの間には、距離がありすぎるのだ。

 海に来たし、海の幸を堪能しようということになり、回転寿司に行った。そこの寿司は、メイド喫茶の飲食物と同じくらい高かった。そのくせメイドさんはいなかった。夢も希望も尽き果てたような暗い顔をしたおばさんがいるだけだ。僕は一番安い、のり巻系の皿だけ取って食べた。ぜんぜん美味しくなかった。長老さんが、のり巻ばかり食べてる僕を不憫に思ったのか、高い寿司をわけてくれたけど、それも特に美味しくはなかった。僕はだんだん切ない気持ちになってきた。不幸の二文字が頭に浮かんできた。僕はまさか、海の幸を食べて不幸になるなんて夢にも思わなかった。