小さくはあるけれど確かなおっぱい

 朝起きてからずっとドラゴンボールをやる。ギャリック砲を撃ちまくる。さすがにちょっと飽きてきたけど、他にこれといってやることもないし、結局はドラゴンボールということになる。ギャリック砲を合計150万発くらいぶっ放したころには、だいたい夕方になっていた。ハロパ帰りのark君とY君と飲むことになっていたので、ゲームをやめる。僕はハロプロパーティには行かなかった。なんとなれば金がないからだ。金さえあれば、と思う。金が100兆円くらいあったら、梨華ちゃんの出るすべてのコンサートに参加するのに、と思う。金が100兆円くらいあったら、梨華ちゃんの全てを買い占めてやるのに、と思う。心も体もぜんぶ。金で買えないものだってあると君は言うのか? おいおい100兆円なめんなよ。それだけあったら、買えないものなんてないんだ。純情も愛も正義も悪も幸福も不幸もすべて僕が買い占めてやるんだ。

 新宿に向かう電車の中で、『ジェニィ』という小説を読む。少年が猫になる話。内容はチャーミングだけど、訳文の日本語が古くさくて死ぬほど読みにくい。ポール・ギャリコの文章が下手糞なのか訳者の文章力が底辺なのかはわからない。でもとにかく僕はそのいびつな文章を苦しんで読んだ。だんだん脳が痛くなってくる。脳が悲鳴をあげている。もうこんなの読みたくない。でもいったん読み始めた以上、読み通さないと気がすまない。頭がプスプス言い出してきた。煙が出てきてもおかしくない。このままだと気が狂ってしまうんじゃないだろうか。でもなんとか発狂するまえに電車が新宿についた。

 アルタ前って何口だったかなと思う。新宿アルタがあるのは東口だったか、西口だったか? 歌舞伎町がその近くにあったよな。じゃあ歌舞伎町はどっちだ。僕は椎名林檎の曲をくちずさんでみた。「JR新宿駅の♪東口を出たらぁあぁ♪」そうか、東口か。そんなわけで僕は東口から外に出た。二人が来るまで間があったので、そのあたりをぶらぶらする。オシャレでかわいい女の子がいっぱい歩いている。かっこいい男の子もうじゃうじゃいる。僕はやはりここでもあらゆるひとから馬鹿にされてるような気がした。
 「何あいつ」「きめえ」「ぜってえ童貞だぜ」「俺の視界に入って欲しくないな、俺まできもくなるからさ」「ねえ知ってる? あいつ石川梨華と結婚したいんだって」「え、マジで? プッ、クスクス! あんなきもい顔して? 冗談は顔だけにしろっつーの!」
 僕は人が怖くなって、人のいないところに行こうと思った。だけど人のいないところなんてどこにもなかった。どこにいっても人の姿があり、その顔には僕にたいする嘲笑が浮かんでいた。そして僕はばったりと梨華ちゃんに出会った。恐ろしいことに、梨華ちゃんも僕のことを笑っていた。はは、馬鹿じゃないの、あんた。わたしがあんたなんか好きになるわけないじゃない。あんたが、どれだけわたしを愛したところで、そんなのは無駄なの。意味がないの。嬉しいどころか、むしろ迷惑ともいえるの。あんたはわたしのことを愛してるというけど。そもそもわたしはあんたの愛なんかこれっぽっちも欲しくないわけなの。いらないの。邪魔臭いだけなの。もうそういうの、やめてくれないかしらね。はっきり言ってきもいのよあんた。

 ark君とY君がやってきた。東方見聞録に行く。となりのテーブルで合コンみたいなことをやっていて、それが非常にうざかった。死ねばいいのにと思った。なんでそんなに絶叫する必要があるのだろう。ジェットコースターにでも乗っているんだろうか。でもたとえば梨華ちゃんがとなりのテーブルにいたとしたら、やはり絶叫するんだろうか。きちがいじみた笑い声をあげたりするんだろうか。僕は首をふる。梨華ちゃんだけに、ブルブルふる。梨華ちゃんはそんなことしない。梨華ちゃんはおしとやかだもの。上品さにかけては誰にも負けないんだ。そんな梨華ちゃんのうちわを、ark君が買って来てくれた。ありがとう。僕は何をかくそう、うちわが好きなんだ。梨華ちゃんのうちわで、部屋をいっぱいにしたいんだ。夏になったら、今日はどの梨華ちゃんを使おうかなって悩むんだ。

 ark君が、煙草をすぱすぱ美味しそうに吸うから、いいなあって思った。僕も吸いたいなって。それで結局、ark君が吸っていいよって言うので、僕は二週間ぶりに煙草を吸った。赤ラーク。死ぬほどうまかった。不覚にも幸せを感じてしまった。小さくはあるけれど確かな幸せを。そういえば梨華ちゃんのおっぱいは、小さくはあるけれど確かなおっぱいだなと、ふと思った。小確幸ならぬ小確パイ。くだらないなあ、これ。

 そして職業の話になり、僕の職業がニーツであるということが問題になった。「そろそろ働いた方がいいですよ」。まあそうなんだけど、ちょっと厳しい。モンテローザでの体験がトラウマになってるんだ。働くことが怖い。年下に馬鹿にされるのが怖い。幹部の人に理不尽に怒られるのが怖い。お客様から罵倒されるのが怖い。みんなからはぶられるのが怖い。僕だけボーリングに誘われないのが怖い。陰口をたたかれるのが怖い。あの人きもい、何考えてるかわからない、きもい、って言われるのが怖い。金は欲しいけど、そりゃ100兆円くらい欲しいけど、怖くてしょうがないんだ。求人を見ているとモンテの悪夢が蘇ってきて死にたくなる。でも結局は論破されて、働かなきゃしょうがないということになった。

 それから恋愛の問題に話がうつった。「ふっちさんは理想が高すぎるんです。高望みしすぎなんです。妥協するということも必要です。それなりの幸せで満足するべきです」と二人は言う。そういう考え方もあると思う。でもなんかしっくりこないんだよな。なんか違う。高いとか低いとかじゃなくて僕はただ梨華ちゃんが好きなだけなんだ。妥協して人を好きになるなんてできないよ。梨華ちゃんじゃないといやだ。ぜったいいやだ。でも結局は論破されて、そんなわがまま言ってもしょうがないということになった。だけど論破されたって何ていわれたって僕は梨華ちゃんが好きだ。妥当じゃなくたって不適切だってそんなのかまうもんか。僕は梨華ちゃんが好きだ。もうこうなったら僕は、徹底的に不幸になってやる。幸福なんて、くそくらえなんだよ。幸福になんて、頼まれたってなってやるもんか。そして僕はやけくそになって、3本目の煙草に手を出した。

 大部分ark君におごってもらった。ありがとう。年上なのにおごってもらうなんてみっともないな。でも将来的に出世したら、お返ししようと思う。でも出世するまえに、この世から出て行ってしまうかもしれず、そのときはごめんなさい。まあ正直なところ、こんな糞まみれの世界からは、さっさと出て行ってしまいたいんだけれど。梨華ちゃんを連れてさ、季節のうつろわない世界に行きたいな。今いる世界はちょっといろんなことが変わりすぎると思う。そういうのってさ、ほとほとうんざりなんだよな。

 ark君と別れて、Y君といっしょにモ研新歓コンパの2次会に参加する。すごい酔ってたからあんまり覚えてないな。山Pが居たのと、亀田兄弟のうちの一人が居たのは覚えてる。どちらも新人さん。二人ともずっと年下なのに、僕はなぜか敬語を使って話した。そして例によって僕の話は二人を退屈させた。梨華ヲタの新人さんが一人居るという話を聞いたので、その人の姿を探した。パッと見では、誰が誰のヲタなのかわからなかった。まあ当たり前なんだけど。そこで幹事長に聞いてみると、もう帰られたとのこと。ちくしょう、逃げやがったな。もし今度会うことがあれば、ぶんなぐってやる。梨華ヲタだけはマジで一発グーで殴らないと気がすまない。しかしこれ、新人の人が読んだらやめちゃいそうだな。まあ冗談だよ。殴ったりしないよ。心の中ではぶっ殺すけどね。いやこれも冗談だ。僕のいうことはつねに、冗談半分に聞いてほしい。

 僕は泣きながら家に帰って、ミクシィに「死にたい」と書いて眠った。そういえばこんこんと小川が卒業するらしいことを知ったんだけど。悲しみをこらえて気丈にふるまっているヲタの人たちを見ていて僕は思った。ちょっと無理しすぎなんじゃないかと。前向きになるのはいいけど、そのタイミングが早すぎるんじゃないかな。こういうときってしばらくは泣いていたほうがいいんじゃないか。そんなにがんばらないで、泣けばいいと思うよ。涙をためこむのは、体によくないと思う。ちゃんと出していかないと、体内で腐ってしまうから。別にかっこ悪くなんかないよ。人間って、悲しいときには泣くものだよ。もし誰かが、わんわん泣いてる君を見て、指差して笑ったり、馬鹿にしたりしたら、僕がそいつをぶんなぐってやるから。そいつが泣いてしまうまで、ぶんなぐってやるんだ。