今日の朝ごろ、キシダンが僕に、「バンド組もうぜ」と言ってきた。「売れっ子になって、一億円かせごうぜ、なあ欲しいだろ、一億円。売れっ子になれば、一億円だけじゃなく、女だって手に入るぜ。お前の好きな梨華ちゃんだって、きっと手に入るぜ」
僕はそれを聞いて、その気になった。「よし、じゃあ僕は、キシダン、君たちとバンドを組むことにする。でも、一億円は、別にいらない。おまえたちで分ければいい。僕は、梨華ちゃんさえ居れば、それでいいから」
キシダンは、大げさにガッツポーズをして、「よし! それじゃあ、話は決まりだ。バンドやるぞ。お前がいれば、百人力だ!」と言った。
しかしながらキシダンは、売れっ子になったあと、一億円だけでなく、梨華ちゃんまで自分のものにし、僕は結局なにも手に入れることができなかった。梨華ちゃんは、キシダンに寄り添い、とても幸せそうな顔をしていた。素敵な笑顔だった。僕は、梨華ちゃんが幸せになったのだから、喜ばなければならない、と思って、笑おうとしたけれど、うまく笑うことができなかった。