ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

君は永遠というものを信じるかい

 リボンの騎士を見終わって、新宿コマ劇場を出ると、金髪のティッシュ配りがいた。僕はそれを無視して歩いて居酒屋に一人で向かった。トラノコというその店は、土曜の夜なのに空いてた。ヲタは僕以外だれもいない。僕はビールを飲みながら、長老さんが来るのを待った。タバコが吸いたくなった。間がもたない。タバコの煙を吸ったり吐いたりしたい。だけど禁煙中だし、金ももったいないし、吸わないことにした。僕はミクシィに書き込みをした。
 『いまトラノコっていうスタンド居酒屋にいるんだけど、これが大当たりで、安いし雰囲気よいし最高。梨華ちゃんがいてもおかしくない。一人か二人で飲むならかなりいい』
 長老さんが来た。長老さんは祭りの字が入ったうちわを持っていた。それからグッチくんが来た。そのあとに茶碗さんが来た。マイミクの人ぜんいんを飲みに誘ったのだけれど、来たのは3人だけだった。セルフさんは、物理的に無理だと言った。ark君も、物理的に無理だと言った。まあしょうがないよな。物理的に無理なものはしょうがない。それで、物理的に無理ではなかった4人で飲んだのだけど、何を話したかはよく覚えていない。女の話ばっかりしていたような気がする。僕は梨華ちゃんのイスプレイがどんな感じだったのかを実演してみせた。

 帰りの電車の中で、茶碗さんとふたりで生について非常に熱く議論した。このときのことは、かなりよく覚えている。中学生がするような、ろくでもない議論だった。
 「人を産むということは人を殺すのと同じことだ。人は生まれれば必らず死ぬのだから。人は人を産むとき、生と同時に死をも与えるのだ。みんなそういうことを全然かんがえずに子どもをつくる。幸福が約束されていなくて、不幸だけは確実に約束されているという世界に、ただめでたいめでたいとか言って馬鹿みたいに喜んで産みおとす」
 僕はそういうことを大声で話した。近くにいた若い女性は僕をちらちらと見ていた。不愉快そうな顔をしていた。僕はその人を意識しながらさらに大声で話した、「人は子どもなんか産むべきじゃないんだ。不幸の連鎖はこのへんで終わらせるべきだ。結局みんな、中出ししたいだけだろ? 中出ししたいだけなんだよ」
 次の駅につくと女性は降りていった。僕はその席に座った。女性のおしりのぬくもりを感じた。僕は茶碗さんの家に行くことになった。

 茶碗さんの家で二人で酒を飲みながら意味不明なことを話し、茶碗さんは疲れましたと言って布団にねっころがり、やがてかすかな寝息が聞こえてきた。僕は孤独を感じて、それを紛らわすためさらに酒を飲んだ。パイナップルの味がした。舌がぴりぴりする。あまりうまくない。僕はミクシィにまた書き込みをした。
 『劇はとても素晴らしかった。梨華ちゃんの演技は最高だった。でも梨華ちゃんはライブのときに、イスを持ち出してきて、それを男に見たててまたがった。明らかに騎乗位だった。あるいは座位か。とても見ていられなかった。どうして、梨華ちゃんが、あんなことをしなければならないんだ? ちくしょう。くやしいよ。くやしいよ』
 それからも僕は酒を飲む。ちびちび飲む。会場で買った梨華ちゃんの写真を見る。5枚ある。僕は上から順番に見ていった。僕はその5枚の写真を、永遠にローテーションさせて、永久に見ていようと思った。だけどだんだん頭がもうろうとしてきた。僕は携帯を手にとって、またミクシィに書き込んだ。
 『会場で買った梨華ちゃんの写真。かわいいな。そしてどういうわけか、死ぬしかないように思う』

 朝起きると、自分がどこにいるのかわからず、不安になった。でもすぐに茶碗さんの家だとわかった。二日酔いで、とっても気持ちが悪かった。水を飲みたいと思った。100リットルでも飲めそうな気がする。茶碗さんはお茶をいれてくれた。僕は冷たいもののほうが嬉しいんだけどな、と思いながらも、そのことは口に出さず、礼を言ってお茶を飲んだ。
 ハロモニの時間になったので、「ハロモニを観ましょうよ」と僕は言った。茶碗さんはあまり見たくなさそうだったけど、液晶薄型テレビを持ってきてくれた。梨華ちゃんが画面に現れて、心臓がどきんとした。僕は思わず「ああ、かわいいなあ」と言った。茶碗さんはそれについては肯定も否定もしなかった。梨華ちゃんは天狗の鼻をつけてて、卑猥だと思った。天狗の鼻は、ちんこみたいに見えた。梨華ちゃんは、ゆいやんのつけた天狗の鼻の先を、ちょん、とつっついた。僕の顔は赤くなった。いやらしいよ梨華ちゃん
 コントがおわり、水の生き物に関するクイズコーナーがはじまった。梨華ちゃんが画面に現れて、心臓がどきんとした。僕は思わず「ああ、かわいいなあ」と言った。茶碗さんは、「梨華ちゃんの髪、うしろのほうをもわもわさせていますね」と言った。茶碗さんの言うとおり、梨華ちゃんの髪は、うしろの方がもわもわしていた。かわいらしかった。似合ってるよ、梨華ちゃん。僕はまた、「ああ、かわいいなあ」と言った。茶碗さんは相変わらず、肯定も否定もしなかった。辻ちゃんミキティが、水族館に遊びにいった。サメ肌をなでて、ミキティは、「坊主頭をなでたときと同じ感じがする。みじかい坊主頭」と言った。それからペンギンとかいろいろ出てきて、最後にイルカがでてきた。イルカはかわいかった。イルカはかわいがられていた。イルカはお利巧さんだった。茶碗さんは言った、「私は次生まれ変わるなら、イルカになりたいですね、やはりイルカですよ、イルカは最高ですよ」僕は言った、「そうですね、イルカになりたいですね。イルカには、イケメンとかブサメンとかありませんからね。イルカは全て、かわいいんですからね。ああやって、アイドルともキスができる。イルカに生まれれば、超しあわせになれますよ」そうだよ。僕はイルカに生まれかわろう。僕は決めた。次はイルカになる。イルカに生まれさえすれば、それだけで質の高い幸福が約束されるんだ。
 レイザーラモンHGハロモニ幼稚園にのりこんできた。僕は彼を久しぶりに見た。相変わらず面白くて嫉妬する。ラモンはしりとりゲームのとき、「棒状のもの」と言った。僕は失笑した。その適当な感じがおもしろかった。僕は「棒状のもの」と聞いて、殺人事件を連想した。被害者は、棒状のもので後頭部をなぐられたと推定されます。「棒状のもの」は、ゆいやんのツボにはまったらしく、おなかをかかえて笑っていた。ラモンはそんなゆいやんに対し、「おい、エロいことを想像するんじゃない!」と言った。ゆいやんはさらに笑った。梨華ちゃんも笑っていた。僕は一瞬わけがわからなかった。エロいこと? どうして、「棒状のもの」が、エロいことにつながるんだ? 殺人事件の凶器だろう、つながるとすれば。木刀とか、鉄パイプとか。そこで僕は気が付いた。棒状のもの。棒状のモノ。モノ。ああ、ペニスか。そうか、そそりたったペニスのことか。なんてこった、ゆいやんはそんなものを想像したのか。そして梨華ちゃんも、それを聞いて笑ったということは、つまり、梨華ちゃんは、ああ、なんてことだ、梨華ちゃんはちんこを思い浮かべたんだ。僕の心は暗い不安に支配された。梨華ちゃんは、一体誰のちんこを頭に描いたのかな。僕はそれが、梨華ちゃんのお父さんのちんこであればいいな、と思った。もしそうじゃなかったら、死ぬしかない。

 薬が飲みたい、と思った。効き目が切れてきている。ひどく憂鬱だ。駅に向かって歩きながら、隕石がふってくればいいのに、と思った。僕の頭のつむじのところに落ちて来いよ。落ちてこい、落ちて来い、と念じながら、駅まで歩いたのだけれど、隕石は落ちてこなかった。
 山手線にのりかえた。帰るのがめんどうだったし、何もやる気しねーし、帰ったところで何も起こらないし、ずっとここに乗って、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるまわっていようかなって思った。シンジ君みたいに。あいつはそもそも、鬱病か何かだろうが。病院にでも行けばよかったんだ、シンジ君は。僕はけっきょく人が怖かったので、山手線をぐるぐるまわる計画は中止にして、家に帰ることにした。
 最後の乗り換えのとき、券売機のところに若くてきれいな女の人がいて、僕はなんとなく、この人こそが僕の運命の人なのかもしれない、と思った。その女の人は、地味ながらおしゃれで、スタイルがよくて、でもやせすぎてはいなくて、髪の毛は光沢のあるきれいな黒色で、肌は初雪のように白かった。いままでは梨華ちゃんこそが、僕の運命の人だと思っていたけど、実はちがったのかもしれない。僕はその人のとなりの機械で切符を買い、その人の後ろについて歩いた。すると色黒の男が僕をおいこして、そのひとの隣に寄りそって、そのひとに優しく微笑みかけた。

 家に戻ると、梨華ちゃんのポスターにキスをする。梨華ちゃん。好きだよ。僕はさ、ずっと梨華ちゃんだけだよ。何があっても。神さまなんかよりもずっと好きだよ。ねえ梨華ちゃん、君は永遠というものを信じるかい。僕は、信じようと思っているんだ。僕はそれを証明してみせる。もしイルカに生まれ変わっても、ゴキブリに生まれ変わっても、たとえ女になったとしても、僕には梨華ちゃんだけだ。