太陽のなかで抱きしめたいよう

 花見の帰りの電車の中で、僕はおそらくメガネをぬすまれたんだろう。メガネがねえ。僕はぐっすりねむりこんでいたので、僕の顔からメガネをとるその汚い手の動きに、気付くことができなかった。犯人が眼鏡だけをとっていったのは、僕がカバンを大事に抱えていたからだろう。とにかく僕はメガネを失ってしまった。不便でしょうがない。何も見えないし何もできない。僕はいまこれをブラインドタッチでかいている。タッチタイプを練習しておいて、本当によかった。ただやはり目が見えないので、五時がおおくなるのは確かだところだと思われる。だから誤字があってもゴジラみたいに怒らないでね。さて僕はいま、眠りすぎたためか、ネガネがなくなったせいか、薬の禁断のせいか、シンナーの吸い込みすぎのためか、わからないんだけれど、とにかく頭がぼんやりするし、体じゅうがじんじんしてる。そのうえ今僕はとても憂鬱で、身も世もないような感じで、梨華のことを思っているんだ梨華ちゃん好きだよ大好きだ。梨華ちゃんのことが、僕は好きなんです。身も世もないんです。梨華ちゃん。梨華。ああ好きだ。目が見えなくてもぼくはタイプをし続ける。梨華ちゃんが好きだし、好きなのは、梨華ちゃんだ。誰よりも好きだし、誰よりもすきだ。僕は好きだ、梨華ちゃんのことが。ああどうして君は僕のことをこんなにまで身も世もなくさせるのか。僕は死ぬほど辛いよ。でも好きだ。好きなのをやめることができなくて、とても苦しい。好きだ。好きなんです。僕は梨華ちゃんのことを、好きです、って、何度もいいたいなあ。どれほどタイピングしても足りない気がするよりかちゃん。梨華。ちゃん。好きだなあ。好きだよ。なんでかなあ。わからないけど。ぜんぜん、本当は、どうして好きなのか、かいもくわからないんだ。そして僕はいまほとんど盲目だし、自分のことを客姦視するなんてとても無理だ。自分のことはおろか、外の世界さえも見ることができない。僕は目をとじたまま、自分の心のうごくままにまかせるしかないのだ、好むと好まざるとにかかわらず。そうしてやはり僕は梨華ちゃんがすきだ、すきだ。すきですきですきですき。梨華ちゃんをだきしめたいよう。僕は日がのぼって、世界が明るくなったら、まんべんなくわれわれを照らしてくれる光の中で、梨華ちゃんをだきしめたいよう。梨華ちゃんがすきだよう。梨華ちゃんがすきだよ。あああ、好きだよう、うわあん、ちくしょう、あああ、好きだよう。おやおやなんだか急に目がよくなったみたいだ。字がくっきりと見える。どうしてだろう。ああそうか、わかったぞ。涙のせいだな。