親愛なるあなたへ。

 僕は最近、保険的な意味でミュージシャンをめざしている。もし芥川賞が無理だったら、ジョンレノンみたいな感じになろうという算段である。そういうわけで、10年前の誕生日に買ってもらったキーボードを押しいれの奥ふかくから取り出して日々、白鍵や黒鍵とたわむれている。

 僕はまず『ハッピバースデー』を覚えて、母さんの誕生日(3月下旬)に弾いてやろうと考えていたんだけれど、間に合わなかったので、せめて自分の誕生日までには完成させようと練習をつづけた。

 そうして今日、ついに誕生日となった。朝の白い日がさしこみ小鳥の声が聞こえるなかで、ハッピバースデーを僕のために弾いた。「ハッピバースデートゥーユー」と歌ってから、何かがおかしいことに気がつく。これは違うぞ。「トゥーユー」ではなくて「トゥーミー」じゃないといけないぞ。僕は「ミー」であって「ユー」ではないんだから。

 ひとつ深呼吸をしたのち、歌詞を「ミー」に変えて歌う。ハッピバースデーディアふりちん。ハッピバースデートゥーミー。練習のかいあって、ピアノは素晴らしくうまく弾けた。だけど何故か、死にたいような気持ちになった。ぜんぜんハッピーな感じになれない。自分で自分を祝うからいけないんだろうか、僕はそう思って、ロベカルのためにピアノを弾き、歌った。ハッピバースデーロベカル

 頭のなかに、ロベカルの精悍な表情が浮かぶ。フリーキックのときの、あの顔。その険しい顔つきが、とろけるように崩れていき、満面笑みに変わる。僕はロベカルの笑顔にふれる。心のなかに温かい紅茶でもそそがれたような、とても良い気分になる。そこで僕は、せっかくだしもっといい気持ちになりたいと思った。ほかの人もお祝いしよう。

 僕は、堂本剛和田アキ子の誕生日も祝った。するとまた心に紅茶が注ぎたされる。ああいい気持ちだなあ、こうなったらもう誕生した日にちに拘ることはない、と思って、梨華ちゃんの誕生日を祝うことにした。梨華ちゃんの22歳のバースデーを祝うべく、全身全霊でもって打鍵し、歌った。まさに熱唱である。

 すると僕の心のなかに、LSD的なものがウワッと飛びこんできた。それは紅茶の中でいとも簡単にとけていく。僕はとてつもない快感を感じ、虫のような声を出し、失神してしまった。

 そして今だに失神しつづけている。だったらどうやってこれを書いているか。たぶん夢の中で書いているんじゃないかなあ。だとすればあなたは、いま夢の中でこれを読んでいるということになるね。こんにちは、親愛なるあなた。良い夢になるといいね。