さいたまスーパーアリーナ

 「れいな最高!」という声が笑笑にひびく。楽しい楽しい夏休み。すごく素敵好きよ。笑笑に残っているモーヲタのみなさん、おつかれさまでした!という声がとどろく。僕はひとり、控えめにばんざいをする。一人でできることには、どうしたって限界がある。やりすぎれば、気ちがいの烙印を押される。

 開演前、電車をおり、さいたま新都心の改札を抜ける。僕はさっそく発見された。あなたふっち君ですよね、サインください。「ああ、その通り、僕はふっち君だよ。愛読ありがとう。これからもよろしくね。サインなんか、おやすいごようだよ。どんどん来やがれっての」僕はふっち君のサインを、みんなにしてやってまわった。もちろん握手もした。リカニーがんばってください!と言われ、僕は無言でこっくりうなずいた。150人くらいに対しサインおよび握手をほどこしたあと、少し遅れて会場に入る。

 席を探し当てる。背後によっすぃーのファンがいた。彼は初めのうちは陽気だったが、最終的には号泣した。しかし僕は号泣することもなく、爆笑することもなく、その間のところをひたすらさまよっていた。ただ、「すごく素敵好きよ」という言葉だけは頭の中に居すわり続けた。

 コンサートが終わったあとしばらくの間、さいたま新都心の改札の前に立って、梨華ちゃんを待った。さまざまな人が通りずぎた。おしゃれな人、きもい人、優しそうな人、優しくなさそうな人、セクシーボーイ、そよ風によりそう人、いろいろいたけれど、梨華ちゃんらしき人は一人も通らなかった。僕は死にたいような気持ちを抱きながら、改札から離れ、笑笑に入った。

 「すごく素敵好きよ」が流れていた。席につくやいなや、それを口ずさんだ。僕は酒をあおり、よっすぃ〜の事を思い、梨華ちゃんのことを考えた。僕の想像の中では、よっすぃ~は成功し、梨華ちゃんは幸せの尻尾をつかんだ。僕は案の定というか何というか、露店商になっていた。サインはとても上手く、欧米風で、非のうちどころがなかったが、それを欲しがる人は一人もいなかった。

 僕の肌の色はしだいに、土色になっていった。よっすぃ~は政治家になり、梨華ちゃんは青年実業家と結婚して一男二女をもうけた。僕のからだは土の中で分解され、ばらばらになってしまった。でもどういうわけか、この歌だけは分解されなかった。僕は土の中でいつまでも歌い続ける。すごく素敵好きよ。すごく、素敵、好きよ。