誰も訪れないどこかの物陰

 美勇伝の『なんにも言わずにI LOVE YOU』が近所のCD屋になかったので、都市の大手CD屋まで買いに行った。
 しかし『なんにも』は一枚も存在しなかった。『じゃじゃ馬パラダイス』の初回限定版は置いてあった。「これじゃどこに行っても無いんだろうな、じゃあ記念イベントには行けないのだな」と思い、死にたくなった。「『なんにも』の代わりに何か買おうかな」と思った。オナニーマシーンラモーンズかで長いこと迷い、最終的にはラモーンズを手に取った。

 帰る途中、カップルを見つけると、そのカップルのセックス動画が僕の頭の中に映し出され、女の子は梨華ちゃんへと姿を変えていった。カップルを見るたびに同じことが起こり、僕は、生きていくのがイヤになってしまった。
 人のまばらな暗い夜道を自転車で走りながら思った。
 「死にたい。どうせいつかは死ぬんだから、いつ死んでも別にいいじゃん。僕のようなクズ野郎は早いとこ死んだ方が社会の為になるんじゃないの? このまま家に帰っても帰らなくてもどっちでもいいような気分になってきちゃった。野たれ死ぬことに対して積極的になれそうだ。誰も訪れないような、どこかの物陰でずっとじっとしていたい。死にたい。美勇伝のイベントに行けないことや、その他もろもろの理由により死にたい。このまま旅に出よう。誰も訪れないどこかの物陰を探す旅に。お金も何にも必要ない。なぜなら僕はそこで何もしないからだ。なんにも言わずに死んでいくのだ。梨華ちゃんのことは、誰かが幸せにしてくれるよ。司馬さんとか、なかりかさんとか、スズキさんとか、GPさんとか、いるじゃん、立派な人がさ。僕が出る幕なんて一幕もありゃしないんだよ。梨華ちゃんのところだけじゃない、他のどの場所においても出禁だよ。僕のかわりなんていくらでもいるしさ、その人は僕よりずっと優秀だし優しいし真面目だし紳士的だし格好いいし頭良いし身体能力が高いし面白いんだ。さてと、僕はこれから、どこに行こうかな。どこでもいいや、誰も訪れない物陰ならどこでも。とりあえず適当に進もう」

 僕は玄関のわきに自転車をとめて、家に入った。そしてお母さんの作った美味しいごはんをもりもり食べた。
 ラモーンズを聞きながら、「俺、パンクロックが好きだ。優しいから好きなんだ」と思った。