僕は夢の世界に戻った。すると家にディックとペリーが押し入ってきた。ペリーに包丁で喉を刺されたところで目が覚めた。喉の渇きを感じたので、洗面所に行って水をごくごく飲んだ。
しばらくすると小春博士が僕のベッドから身を起こした。
「おはよう、ふっち君。カラオケ行こうぜ」
「しょうがないなあ。行きましょう」
オンボロの電車に乗って都市に向かう途中で、小春博士が僕の頭をつくづくと眺めて言った。
「おい、ふっち君、白髪が増えたなあ!」
「そうですか。最近、深く悩むがことが多いですからねえ」
「おい、ふっち君、それだけでなく、髪が薄くなってきてないか?」
「えっ! マジですか!(白髪はいいけど、禿げは困っちゃうな……)」
「でも気のせいかも。つむじのあたりの毛の加減によってそう見えるだけのことかもしれないな」
僕はつむじのあたりをマッサージしながら、「そうだったらいいんですけどねえ」と言った。
都市に着いて、カラオケ屋に向かう。カップルの姿が目に付く。一組のカップルとすれ違うごとに、死に対する欲求が高まっていった。あと一組とすれ違ったら僕は自殺するだろうな、というところで、カラオケ店の個室に入った。僕は思った。
「危なかった。もう少しで死ぬところだった。カップルは危険だ。僕にとっては、辻斬りが好きなサムライのごとき存在だ。もし僕が梨華ちゃんとお付き合いすることになったら、決して2人で外を出歩かないようにしよう。誰のことも自殺に追い込みたくないから。ずっとどちらかの部屋にこもって、川のぬし釣りやUNOをプレイしていよう」
博士はパフューム等を歌い、僕はガガガSP等を歌った。
祝日で混んでいた為、2時間で店を追い出された。
「ねえ、僕はいくらお金を払えばいいですか?」と尋ねた。
「バカ、いらないよ。俺がお前に払わせたことあるか? ないだろ?」と博士。
「小春博士ってば、優しすぐる!」
「さて、まだ歌い足りないな。もう一軒行こうぜ」
「でも僕お金がないですよ……」
「いいからいいから!」
僕らは次のカラオケ屋さんへ向かって歩き出す。幸せそうなカップルたちとすれ違う。あと一組とすれ違ったら「もう限界だ、死ぬしかない」と思うだろうな、というところで、別のカラオケ店の個室に入った。
博士は田村ゆかり等を歌い、僕はガガガSP等を歌った。
2時間で店を追い出されると、
「次は酒を飲みに行こう!」と博士が言った。しかし居酒屋はまだどこも開いていなかった。僕らはしぶしぶ松屋に入った。博士はカレギュウを注文した。僕は豚丼の大盛りを頼んだ。先にカレギュウが出てきた。カレーライスに牛丼の具がのっかっている。非常に美味しそうに見えたので、僕はカレギュウをガン見して、「それ、美味しそうですね」と言った。味噌汁が出てくると博士は「カレーに味噌汁は合わないよなあ。何とかしてほしいよなあ」と文句を言った。「そうですよね。味噌汁ではなくオニオンスープとかを出して欲しいですよね、カレーには」。豚丼が出てきた。食べ始めのころはカレギュウのことばかり考えたが、最後の方では豚丼と味噌汁のことだけを考えていた。酒は飲まないことになり、「ごちそうさまでした」と博士に言い、家に帰った。
トイレでリカニーを終えた僕は、梨華ちゃんの写真を指でさすりながら「繰り返す、このリカニズム」という言葉を頭の中で何回もつぶやいた。トイレから出ると、音を立てないように部屋まで歩き、ベッドにゆっくりと横になり、天井の隅っこをぼんやりと見つめながら「梨華ちゃん、好きだよ……」と裏声でつぶやいて、目を閉じた。