メイド喫茶に入り、テーブルにつくやいなや、隣のテーブルの人がアイスコーヒーをこちら側に豪快にぶっこぼして床が茶色く染まった。僕の足にも多少かかった。こぼした人は「ああ! すみません!」と言い、僕は「いえいえ、ぜんぜん大丈夫ですよ」と笑顔で答えた。大きな過ちを犯した人間に対して仏的な寛容さを示すことによって、りこちゃんの僕に対する好感度をアップさせようという作戦である。こぼした人が床を拭こうとすると「ご主人様、私がやりますので!」と言ってりこちゃんが率先して床を拭いた。別にりこちゃんがやらなくてもいいのに、他にもメイドさんがいるのに、りこちゃんが率先してやるなんて、すごく偉いなあと思った。小さくしゃがみこんで床を拭き拭きしているりこちゃんを見ていると、僕の胸はあつくなった。
Leaderさんはレモンティーを頼み、僕は生ビールを頼んだ。乾杯して、グビグビ飲んでいると、りこちゃんがやってきた。
「おひさしぶりでーす!」
「あ、おひ! おひさしぶりです」
「ふちりん! 会いたかった!」
「あ、僕も、会いたかったです」
「あれ、ふちりん、ちょっと顔が赤くなってますね」
「ビール飲んだから赤くなったのかな?」とLeaderさん。
「あの、えーと、照れているんですよ」と僕は頬に手をあてて言った。
「ふちりん、かわいい!」と言ってりこちゃんは悶えた。
「いやあ、それほどでも」と僕は言った。
「レモンティーすっぱくないですか?」とりこちゃんはLeaderさんに尋ねた。
「いや、そんなことないよ」
「あ、レモンティーと言えば、以前、吉田君のレモンティーという小説を文芸賞に応募したんですよ」と僕は言った。
「それで、どうなった?」とLeaderさんは身を乗り出して言った。りこちゃんはかわいい目を僕の顔に向けた。
「いまだに連絡がありません……」
「おいマジかよ! ぎゃははは! おもしれえ!」とLeaderさんは顔をくしゃくしゃにして笑った。
「あははは!」とりこちゃんは楽しそうに笑った。
「まったくもう! 笑い事じゃないですよ! ぷんぷん!」と僕は抗議した。
「あ、ふちりん、かわいい!」
「そうですか? えへへ、まいったなあ……」