ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

その16

 御園座から出てきた僕の頭は、寝不足と疲労と梨華ちゃんと太陽のせいでぼんやりしていたが、せっかく名古屋に来たことだし、名古屋城に行こうと思った。地下鉄名城線で最寄りの市役所駅に行き、深い堀に沿って名古屋城本丸を目指して歩く。その途中の東門に、入場券売場があった。システムがよくわからないまま窓口の女性に無言で500円を差し出し、無言で入場券を受け取った。僕の隣にいる客が、「大人1枚お願いしまーす!」と明るく言ったので、「しまった!」と思った。「僕もああいう風に言うべきだった。無言ですべてをすませてしまった。頭のおかしい人だと思われたかもしれない」と悔やんだが、今さらどうにもならないので、逃げるように名古屋城の敷地内へと足を踏み入れた。平日の夕方だったけどそれなりに人の姿があり、ところどころにカップルの姿が見受けられた。カップルの姿は、名古屋城の本丸に近づくにつれて増えていき、僕の心はふみゅうとなっていった。

 名古屋城天守閣前の広場で、体格のいい大道芸人が、何かの物体を高く放り投げ、それをうまくキャッチする、という芸を大声を出しながら披露していた。周囲には若い男女が数人しゃがみこんでいる。その芸は、名古屋城とまったく関係がないように思われたので、どうしてこの芸をこの場所でするのだろう、と首をひねったが、その大道芸人は汗をかいて一生懸命に芸をしていたため、しだいに応援したいような気持ちになってきて、「がんばれ! それいけ!」と心の中で声をかけたのだった。

 名古屋城天守閣の内部には、鎧やカタナや絵巻物が展示してあったので、それらをふむふむと見物しながら頂上を目指した。巷でかわいいと評判の僕ですが、カタナや火縄銃を見ると、血が沸いて肉が踊ったので、やっぱり男の子なんだなあと思いました(おっさんです)。内部では多数のカップルがまったりと過ごしており、それを目にして僕は、とても寂しい気持ちになりました。僕はここで何をやっているんだろう、何のためにここにいるのだろう、どうしてこんなに切ない気持ちになるんだろう、と自問していると、春休み中の大学生と思われる数名の若い男女が、キャッキャと戯れているのを見た。彼らは「なんかつかれたー。エレベーター使おうよ」とか言って、エレベーターに乗り込もうとしていたので、僕は「甘えるな!俺の背中を見ろ!」と思いながら階段をさっそうと上っていった。頂上に到着すると、さっきの若い男女がいたが、僕の汗だくの姿に見向きもせずに、窓際に設置された望遠にキャッキャと群がっていたので、ふみゅうとなりました。周りの人間をよく見てみると、名古屋城天守閣の頂上に一人で来ている人間は僕くらいしかいなかった。きちがいだと思われはしまいか、と不安になってきた僕は、目を泳がせながら外の景色を見、写真をとり、売店の記念品を見て、あまり長居はしないで逃げるように階段を下りていった。

 名古屋城の敷地から出て、最寄りの市役所駅の近くまで行き、青いベンチに座った。名古屋城がやたらに広くて、たいそう歩き回ったため、僕は疲れていた。ベンチに座ると体がじんわりと気持ちよくなった。HPが回復している、と思った。そしておもむろに携帯を開き、インターネットで名古屋のメイド喫茶を探しはじめた。栄駅周辺にメイド喫茶がいくつかあったので、地下鉄名城線で栄駅に行った。そして繁華街を歩き回ったが、まったくメイド喫茶が見つからない。ガラケーなので、地図が小さくてよく見えず、メイド喫茶の場所がよくわからず、自分がどこにいるかもわからなくなった。僕は同じところをぐるぐる回ったり、行ったり来たりして、「昼キャバいかがですか!」と黒服の男にキャバクラへと誘引されそうにもなった。梨華ちゃんの舞台を観るために名古屋に来て、そのついでにキャバクラなんて行ったら梨華ちゃんに軽蔑されそうなので行きません、と心の中で言った。キャバクラは駄目だけど、メイド喫茶なら怒られないんじゃないか、ギリセーフなんじゃないか、という甘えた気持ちがあったため、僕はメイド喫茶を探しつづけたのだが、一向に見つからない。足が棒になってきたので、探すのはやめようと思った。名古屋駅前に1件あるのを知っていたので、そこに行くことにした。迷いつつもなんとか駅を探し出し、名古屋駅まで地下鉄でもどり、そのメイド喫茶を発見した。中に入ろうとすると、電話がかかってきた。そして、名古屋近辺に住むインターネッ友と急きょ会食をすることになった。僕はメイド喫茶の前で回れ右をし、名古屋駅へと引き返した。

 インターネッ友に舞台『細雪』のパンフレットを見せて、この子が梨華ちゃんやで、かわいいやろ、梨華ちゃんのためにここまできたんやで、遠征って言うんやで、と説明し、「すごく好きなんだね、そのために埼玉からここまで来るなんて。遠征っていうんだ。へえ」というようなことを言われ、ヲタとしての自尊心がじわじわと満たされるのを感じた。2時間弱くらい楽しくお話をして、インターネッ友と握手し、再会を誓い合って別れた。握手をしたとき、アイドルの握手会のことを不可避的に思い出し、僕は条件反射的に「がんばってください!」と言ってしまったので笑いました。柔らかい手でした。