その1 家を出る

 梨華ちゃんのバスツアーの準備を終えて、眠ろうと思ったけど眠れなかった。アレをすれば眠れるかもしれないと思ってアレをして、布団に入ったけれどもやっぱり目が冴えて眠れず、ただ疲労が増しただけだった。谷崎潤一郎の『痴人の愛』を読み始めるが、40ページくらい読んでもまったく眠くならないので困った。だんだんやけくそな気持ちになってきた僕は、ウイイレ2012のオンライン対戦をやることにした。

 僕は長友が大好きなのでインテルを使った。相手の人はACミランを選んだ。そういえば梨華ちゃんフェルナンド・トーレスが好きだったな、と思った。
 梨華ちゃんは以前ジダンとかアンリが好きって言ってたので安心してたけど、最近はトーレスっていうイケメンを好きって言ってるので不安な気持ちになります。やっぱり梨華ちゃんもエグザイルみたいな感じの男*1が好きなんでしょうか。エグザイルみたいな感じの男に強く押されたら、そこらへんのバカ女みたいにホイホイ付いて行ってしまうのでしょうか。そんなことはないと思います。なぜなら梨華ちゃんは今まで一度もフライデーとかに熱愛をスクープされたことがないからです。

 フェルナンド・トーレスインテルにもミランにもいないのに、僕は試合中ずっとフェルナンド・トーレスのことを考えてしまい、ふちりん操るインテルはインターネット上の誰かの操るACミランに敗北しました。2対0くらいで。ぜんぶフェルナンド・トーレスのせいです。ウイイレをやったらさすがに疲れて寝ちゃうだろう、と思っていたのだけれど、ぜんぜん眠くならなかった。時計を見上げる。そろそろ眠るのを諦めるべき段階に入ってきていることをひしひしと感じた。そこで僕は、眠ろうとするから眠れないのであって、眠るのを諦めたら逆に眠れるのでは?と思い、布団に入って目をつむりましたが、逆もクソもありませんでした。眠気は1ミリたりとも訪れない。しかたないので、目を閉じたまま、パフュームとかABCHOとか、色んなアーティストの音楽を聴きました。そして朝が来たのでした。

 午前5時半ごろ、洗面所で身だしなみを整えていたら、お母さんに「あら、今日はあれだっけ、りなちゃんのコンサートだっけ」と言われました。お母さんは僕が何度訂正しても梨華ちゃんのことをりなちゃんと言うので、もう諦めています。その時もとくに訂正しないで「そうだよ」と言いました。外を見ると雨が降っていたため、ふみゅうとなりました。「梨華ちゃん、雨女なのはいいけど、こういうときくらいは勘弁してよ。頼むよ」と思ったけど、僕は別に怒ってはいなかった。雨女というのは科学的に考えてありえないですし、そもそも当時は梅雨の真っただ中なので、梨華ちゃんは何も悪くありません。なんかそういうことを思ってみたかっただけです。

 前日あらかじめロヂャースで購入しておいた激安の折り畳み傘を開いてみると、いきなり傘の骨があらぬ角度に飛び出て黒い布を突き破ったので、ふみゅうとなりました。安物買いの銭失いとはこのことだな!と思った。なにしろその傘の、柄の部分以外のありとあらゆる骨が、針金と見まがうくらい細いんですよ。なめてますよこれは。その飛び出た骨を元に戻そうとしたけど、指を怪我しそうだったのでやめました。お母さんに折りたたみ傘を借りました。最初からそうすればよかったんだよ。お母さんの傘の骨は恐ろしく頑丈にできていたのでなんか笑いました。それから家を出て、電車に乗りました。今日の夜は初対面の人たちとの相部屋だし、そこでも眠れない可能性が高いから、バスツアー中に睡眠不足で死ぬかもしれないな…と思いましたが、結論から言うと、ほとんど全く眠れなかったけど死にませんでした。

*1:エグザイルの人はいい人です。