その2 バスの駐車場

 一睡もしていないため、電車に揺られている間にやや眠くなったけど、同時に頭の真ん中らへんがキンキンに冴え渡っていたので、眠りませんでした。東京駅に着いて、やや迷いつつ八重洲南口から外に出ました。雨は止んでいたが、いつまた降り出してもおかしくないようなどんよりした空だった。太い道路に沿って鍛冶橋駐車場まで歩いていくと、そこには様々な色の大型バスがずらっと並んでおり、たくさんの人々がいた。

 まず最初に目についたグループが、梨華ちゃんバスツアー参加者の集団であるように思われた。おそるおそる近寄って行ってみると、オシャレな感じの若者が多数見受けられたので、「これは違う」と思った。梨華ちゃんのファンは、全体的にもっと年老いている。こんなに垢抜けた人はいないし、現場でいつも見る人たち(おまいつ)が見当たらない。ふと左方を見ると、ピンク色の服を着ている人が目についた。その周りには10名ほどの人々がやや不安そうに立ち尽くしていた。ところどころピンク色だったし、現場でいつも見る人たちだったので、あそこが梨華ちゃんバスツアー参加者のいるべき場所なんだな、と思った。僕もそこにフラフラと行って、やや距離を置いて一人で突っ立っていたが、おまいつが仲良く話したりしている一方、僕は孤独だったのでだんだん居たたまれなくなり、息継ぎをするかのようにその場から離れ、有名ヲタのせきねさんを探しに行きました。

 バスツアーの10日前くらいにツイッターで「梨華ちゃんのバスツアーに行くので、よかったらみなさん見送りに来てください」みたいなことを半分ギャグのつもり(半分マジ)で呟いたところ、せきねさんがそれに対して前向きな返事をしてくれたので嬉しかった、ということがありました。せきねさん以外の人は、誰も何の返事もしてくれなかったので、「美勇伝バスツアーのときは5人くらい見送りに来てくれたのに…。さみしい…」と思いましたが、僕の日ごろの行いが悪いせいなのは明らかであり、さみしいと思う資格は僕にはなかった。

 集合時間の午前7時45分を過ぎてもせきねさんの姿が見えないので、「今ごろスヤスヤ眠っているか、雨模様だからめんどくさくなっちゃったかな」と思った。そして今度は「見送りに来られなかったことを、せきねさんが気に病まなければいいけど」と、せきねさんの心が心配になってきました。「もともと僕は半分ギャグのつもりで見送りのことを言い出したわけだし。こんな雨模様の中、朝早く見送りのためだけに来てくれるなんて、僕のような邪まな人間には勿体なさすぎることだし」
 そしたら案の定、せきねさんがツイッターで申し訳なさそうに「寝坊しちゃいました…」と謝っていた。僕はできるだけせきねさんの心がふみゅうとならないような文面を考えて、お返事をしました。気持ちだけで嬉しいので、本当に気にしないでくださいね。

 いよいよバスの出発時間がせまってきました。しかし梨華ちゃんファンの姿はそれほど多くなっていなかったので「あれ?」と思いました。我々のバスを探すと、どうやら2台しかないようだった。「今回は、こんなにこじんまりとした感じなのか。美勇伝バスツアーのときはもっと人がいっぱいいたし、バスももっと多かったけど…」と、やや寂しさを感じました。美勇伝は3人いたけど、今回は梨華ちゃん1人だからしょうがないのかもしれません。

 午前8時ちょっと前、バスに乗った。僕の席は左の窓際だった。となりの方は僕より年上のように見える男性だった。「すみません」と言って、窓際の席に通してもらった。ここですぐに「今日はよろしくお願いします」と挨拶するべきだと思ったが、勇気が出なくてとりあえずツイッターを眺めてしまった。誰が言い出したか知りませんが、ヲタは推しメンに似るという定説があります。僕は梨華ちゃんに似て、人見知りでシャイなのです。顔や体つきはまだあまり似てませんが、これから少しずつ似ていくんだと思います。そして最終的に、僕は梨華ちゃんになります(なりません)。

 バスが発進し、駐車場を出ようとする。4年くらい前の美勇伝バスツアーのときは、℃界隈の人たちが駐車場の出口にいて、スケッチブックや旗や、なんかそういう見送りグッズを持って僕たちのことを盛大に見送ってくれたことを思い出しました。“見送り最強”を自認するショッキーさんがいました。OLの星野さんがあの屈託のない笑顔で手を振っていました。たかぎさんやせきねさんもいました。デル君もいたかな。℃太郎さんはいなかったような気がします。いたらすみません。なにぶん昔のことなので記憶が曖昧です。曖昧ミーMINDです。曖昧ミーMINDというのは、美勇伝の曲で、ライブでの踊りがセクシーすぎるやつです。当時とても多感だった僕は、梨華ちゃんのその踊りを生で見て精神が崩壊しそうになりました。とにかくその、4年前くらいの美勇伝のバスツアーの時には、℃界隈の人たちが、駐車場の出口で見送るだけでは飽き足らず、太い道路で信号待ちしているバスのところまで満面の笑みで歩道を走ってきて、スケッチブックやウチワや色んな物を提示してくれ、「まさに見送り最強!」と思ったものですが、いま駐車場の出口の辺りには誰もおらず、バスが道路に出て信号待ちしている時も追いかけてくる者がなかったので、もの悲しい気持ちになりました。OLの星野さんの天使のような笑顔が、なぜだかとりわけ脳裏に蘇ってくるのでした。

 もしせきねさんが見送りに来てたら、たった一人で2台のバスを追いかけて見送るはめになっていたから、むしろせきねさんは来なくてよかった、来ていたら晒し者のような状態になっていただろう、と思いました。