ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

その31 ライブ会場を出てバスへ歩く

 ライブが行われた建物から出ると、すっかり夜になっていた。空はどんよりと曇っていた。あの雲の向こうには天の川が流れているのだと思ったが、晴れていたら本当に見ることができたのだろうか、という疑念も心の中には生じていた。今まで生きてきて、天の川なんてものはプラネタリウムNHKのニュースでしか見たことがないからだった。頭上を見たとき、もし本当に天に星の川が流れているのだとしたら、さぞ感動することだろうなと思った。しかも梨華ちゃんと一緒に見られるのだとしたら、その状況があまりにロマンチックすぎて、僕はおっさんのくせに涙すら流すかもしれなかった。でも現実はそう上手いことはいかず、ダークグレーの曇り空が陰鬱に広がっていた。もしかしたら雨すら少し降っていたかもしれない。
 あまりものごとが上手くいきすぎてもなんか嘘くさくなってくるので、このくらい上手くいかない方がいいのかもしれない。梨華ちゃんとの思い出が嘘くさくなるのはごめんだ。
 僕はそう思いながら、闇の中で黒い影となったヲタたちの後を歩いていく。さきほどの梨華ちゃんの姿が脳裡に強く焼きついていた。僕の脳裡で動く梨華ちゃんの笑顔や歌声は、山奥の深い闇の中で、とりわけ際立っていた。遠くにバスの灯りが見えてきた。3台のバスに向かって、黒い影となったヲタたちはまっすぐに歩いていく。その影たちの頭の中では、きっとそれぞれの角度から見た梨華ちゃんが再現されているのだと思うと、不思議な気持ちになった。梨華ちゃんは1人じゃなくて同時的にたくさんいるのだ。それぞれにとってのかけがえのない光となっているのだ、この山深くの暗闇の中で。そしてその人たちの中にいる梨華ちゃんに僕は手出しをすることができない。僕の中にいる梨華ちゃんにも、他の人は手出しをすることができない。
 梨華ちゃんはライブのMCで「あなたの、あなたの、あなたの、あ、ごめんなさい。あなただけの! 石川梨華です!」という決めゼリフをよく言う。それを聞いて僕は「いや、そんなわけはないだろう。僕だけの梨華ちゃんになんて、なってくれないじゃないか」と思ってしまうことがたまにあるのだが、あながち梨華ちゃんの言うことは間違っていないのではないか、という気持ちになったのだった。