ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

大阪旅行日記

 七夕バスツアー日記がまだ終わってないけど、3月29日から30日にかけて大阪に行ってきた。梨華ちゃんの出演する舞台「水戸黄門」を観るためである。新幹線に1人で乗るのが生まれて初めてだったため、大いに緊張したが、乗車券の買い方の予習をヤフー知恵袋等でみっちり行ったことにより、実にスムーズに買うことができた。しかし冷や汗はかなりかいた。ナイーブである。新幹線の改札を通る際、乗車券と特急券の2枚を重ねて入れるのだが、これも初めての経験だったため、うまく改札を突破できるのか不安だったけれど、スッと入れてスッとキャッチすることができたので安心した。新幹線のぞみ号の自由席に乗ると、あっという間に東京駅から新大阪駅に着いたので、新幹線すごい! 文明!と思うと同時に、去年の名古屋旅行で使用した夜行バスとは一体何だったのか、結局世の中は金なんだな、というもの悲しい気持ちになった。新大阪から大阪に出て、そこから環状線という山手線的な線に乗り、鶴橋駅で降りる。そして近鉄奈良線で一駅の大阪上本町駅に到着。途中、周りの人々が流暢かつ自然な大阪弁で会話していたので、みんな大阪弁うまいなあ! さすが大阪!と感動した。

 上本町駅前の広場に、なにやら大きくてカラフルな旗がひらめいているのが目に入った。水戸黄門の舞台の出演者たちの存在をアピールする旗だった。すぐさま石川梨華という文字を発見した僕は、「梨華ちゃん!」となり、胸を高鳴らせながら、青い旗に吸い寄せられるように歩いていく。周囲の目をやや気にしながら携帯のカメラで写真を撮る。向かいのビルからも撮る。

 その古めかしいビルの地下には飲食店が連なっており、ここで昼ごはんを食べようかしらと考えた。ラーメンを食したい気分だった。北海道ラーメンの店を見つけたが、大阪で北海道ラーメンを食べるのはいかがなものか、と思い、別の店を探す。現地っぽいラーメン屋を発見し、入ろうとしたら、入口のところに「頑固おやじのこだわりスープ」みたいな貼がしてあり、「頑固おやじ!? こわい! なんか怒られそう!」となり、踵を返した。ゆるふわおやじの店だったら入店したのになあと思いながら。

 結局、昼ごはんは食べないまま観劇をすることにした僕は、新歌舞伎座の入っているシュッとした駅ビルのエスカレーターを上っていった。新歌舞伎座は駅ビルの最上階にあり、その階に上っていく人は、おじいさんとおばあさんがほとんどだった。梨華ちゃん現場にいつもいる人、いわゆる「おまいつ*1」は2人くらい見かけたけど、勇気が出なくて話しかけられなかった。「こんちには、いつもお会いしますね。大阪までお疲れさまです。ご機嫌いかがですか?」くらいのことは言っても罰は当たらないだろう、むしろ積極的に挨拶するべきだろう、という気がしたが、「え? いつもお会いしてますっけ?」的な反応が来たらつらいなあ、という不安があった。

 入口のところには、僕の所属する私設応援団「うさぎの会」からのとても豪華なお花が飾られていた。僕は所定の銀行口座に金を振り込んだだけで何もしていない。うさぎの会のメンバーでは僕がおそらく最もフォロワー数が多いのだからせめて広報係的な感じにはなろうと考え、後日ツイッターに花画像をアップしたのだが、うさぎの会のメンバーの誰からもRTされなかったため、僕はうさぎの会のメンバーから疎まれているのかもしれない、あるいはそもそもメンバーであることを知られていないのかもしれない、という不安に苛まれた。

 僕の座席は、1階9列目の真ん中らへんだった。おじいとおばあに囲まれていた。年金生活!と思いながら、売店で買った水戸黄門のパンフレットを眺める。梨華ちゃんのページばかり見ていると梨華ちゃんを好きすぎる感が出てしまって、それはなんか恥ずいので、あえて全てのページを均等な時間配分で見るように心がけた。そうこうしているうちに灯りが落ちて舞台が始まる。舞台の前端にあるマイクで役者の声を拾ってるようなのだが、マイクまでの距離がけっこうあるせいか、声はさほど大きくならず、この音量でおじいとおばあたちはちゃんとセリフを聞き取れるのだろうか、僕ですらやや聞こえづらいのに、と心配になった。すると梨華ちゃんが出てきた。大きな拍手をする者たちが前方の一部におり、「あ、これは梨華ちゃんヲタだな」と思った。僕も梨華ちゃんヲタとして大きな拍手をするべきだと考えたが、なんだか目立つのが恥ずかしくて、音が出るか出ないかのぎりぎりの拍手をすることしかできなかった。冒頭に、男のふりをした梨華ちゃんがひと悶着を起こし、取り押さえようとした格さんが梨華ちゃんの胸に触れ、「え? なにこのぽにょぽにょ感!?」みたいなことを言うシーンがあった。公演は全部で30回くらいはあるから、格さんは合計30回くらいは梨華ちゃんの胸に触れる計算になるぞ、稽古の時を考慮したら更に多くなる、と思い、僕の胸はひどくざわついた。しかしそのざわつきよりも、梨華ちゃんが可愛すぎることによる、胸キュン的なものの方が勢力的には上回った。双眼を構えながら、華やかな着物姿の梨華ちゃんを眺め、「はあ…、梨華ちゃんはなんて綺麗なんだ…。なんて綺麗な人なんだ…」という声をわずかに漏らしてしまった。周りはご老体ばかりだから、多少声を出しても聞こえないだろう、という甘えた気持ちもあった。
 梨華ちゃんは可愛らしくて綺麗なだけではなく、演技も素晴らしかった。去年の大舞台「細雪」の経験から来ると思われる自信が、あらゆる表現に満ち溢れていた。持ち前の真面目さが滲み出た非常に丁寧な演技だったし、かと言って真面目で丁寧なだけでなく、情熱的なシーンではしっかり情熱的だった。梨華ちゃん本当に立派な女優さんになったなあ、という感慨を抱き、目頭が熱くなった。
 幕間の30分では、周りのおじいとおばあたちが、ここを先途とばかりに幕の内弁当をむさぼり食っていたので、そない必死に食わんでもええんちゃう? 舞台が終わった後にレストランとかでゆっくり食したらええやんけ、と思ったが、幕間で弁当を食うことに何か重大な意味があるのかもしれない。
 舞台の終盤、助さんが梨華ちゃんに惚れたらしく、梨華ちゃんに告ろうとスタンバイしており、助も格もマジで油断がならねえ、と思った。けっきょく助は告る前にフラれたのだが、結構あっさり引き下がっていたから、元々そんなに梨華ちゃんのこと好きじゃなかったんじゃないの? それなのに告ろうとするなんてクソチャラいじゃねーか! 助よ! さては助平の語源は助さんだな?と思った。
 幕が降りた後に「この後は歌のコーナーです!」という宣言がなされ、助さんと格さんがマイクを持って登場し、例の歌、人生楽ありゃ苦もあるやつ、を良い声で歌い始めたので思わず噴き出してしまった。最後に里見浩太朗のステージが始まった。声量があってとても歌が上手かったけれども、黄門様の姿よりも弱々しく老けて見え、少し心配になった。梨華ちゃんは歌を唄わなかった。ぜひ梨華ちゃんの歌が聴きたかったので非常に残念だった。

 せっかくだから売店で何か買おうと思い、普通の印籠と印籠お守りで迷った結果、印籠お守りを買った。ただの印籠を買っても「ひかえおろう!」とか言って楽しめるのは最初だけで、そのうちゴミになるだろう、お守りなら護ってくれるし嵩張らずゴミにはならない、と判断したのだ。その印籠は、後日このように3枚のポスターの真ん中に飾り、どうか梨華ちゃんをお護りください、と黄門様に祈った。

 新歌舞伎座を後にした僕は、大阪城公園前に向かった。花見をするためである。広大な土地に広がる大阪城公園は暗く、ひっそりしていた。花見客は散見される程度で、まったく盛り上がっていない。これは一体どういうことだ? 今日は金曜の夜で、場所は大阪城公園、桜は今週いっぱいで散る可能性大、この3つの条件が揃っていながら、なぜこんなにも盛り上がっていないのだ? と首をひねりながら、寂しさと不安に包みこまれた。ときおり静かに低空を飛んでくる巨大な旅客機がさらに僕を不安にさせた。

 とりあえずコンビニを探し、キリンラガービールのロング缶を2本買い、一人で花見を始めた。梨華ちゃんと二人で花見ができたらどんなに幸せだろう、と思いながら花を見る。夜は更けていき、だんだん寒くなってくる。不安と寂しさは加速していく。僕はここでいったい何をしているのだろうか。なぜ若干無理をしてまで大阪に来ているのだろうか。そしてなぜ不安や寂しさまで感じなければならないのだろうか。僕はいったい梨華ちゃんとどうなりたいのだろうか。どうなったらお互いに幸せなんだろうか。幸せとは何だろうか。そんなことを考えて泣きそうになっていると、携帯がブルブル震えた。書肆アラビクの店長さんからのメールだった。大阪にお住まいの店長さんと、この後一緒に飲むことになっていたのだ。

 花見を切り上げ、ほろよい状態で店長さんと合流し、天満のほうへ移動した。「せっかくだから、大阪っぽいものを食べたいです」と僕が希望したら、店長さんは「この店は大阪にしかないから」と言って、路地裏のメキシコ料理店に連れて行ってくれた。「え! メキシコ料理!?」てなったけど、食べ物も酒も美味しかったので良かったです。店長さんは髭の似合うダンディーな人だった。店長さんは、「ふちりんと梨華ちゃんがどうにか上手くいくように我々も考えているんだけど。やっぱり芥川賞を取るのが近道だよね」とサラッと言うので、芥川賞ってそんなにサラッと取れるもんなの?と思い、「僕はちょっと難しいですよ。シヴイさんの方が芥川賞に近いような気がします。僕は梨華ちゃんに関する日記しか書けないからダメです」と答えた。店長さんは「ふちりんも行けるよ!」と言ってくれたが、僕にはシヴイさん以上の面白い文章を書ける自信がない、シヴイさんは天才ですよ、あの人はいつか必ず世に出る人です、嚢中の錐です、というような言葉を繰り返したのだった。

 店長さんと楽しく飲んでお別れした後、ホテルには泊まらず朝まで飲むことにして、近くのバーに向かった。「今日は石川梨華ちゃんの舞台を観に大阪まで来たんですよ」とマスターに話しかけたら、それまであまり愛想のよくなかったマスターが「石川さん! モーニング娘の!」となって、「私は吉澤ひとみが好きでした。DVDも買って見ていました」等と楽しそうにしゃべりはじめ、すぐに打ち解けたので、梨華ちゃんおよびモーニング娘はすごいなあ、と思った。

 その後、書肆アラビクの店長さんが教えてくれたメイドバーにはしごをした。そこでも梨華ちゃんの話を出したところ、常連さんやメイドさんとすぐに仲良くなることができた。僕はカラオケを勧められ、酔ったいきおいで思い出の曲「ここにいるぜぇ!」を熱唱し、喉がやや嗄れる。東京から来たということで、みんな優しくしてくれた。メイドバーが5時で閉店すると、常連さんの1人が僕を最寄の駅まで送ってくれた上、切符を買うのを手助けしてくれた。僕があまりにも酔っぴらって「文字が二重に見えます」などと呟いてフラついていたら、その人は「そんなんやったらあかんやんけ! しゃーない、新幹線に乗るまで送ったるわ」と言って新大阪駅まで一緒に来てくれた。僕が新幹線の改札を通るときには、駅員さんに「その人ホームまで連れて行ってやってくれや! あかんでその人!」と呼びかけていた。「大丈夫です、ありがとうございました」という僕の声は届いていただろうか。あんなに優しくしてもらって、すごく嬉しかったし、大阪人のことがとても好きになった。そして僕は視界がぼんやりし足元が覚束ないながらも、自由席に何とか腰を落ち着け、酒臭さを周囲に発散させつつ、淡い夢の中にゆるゆると入り込んでいったのだった。

*1:お前いつもいるな、の略