その36 ホイミスライムの名札

 バスの中で添乗員さんによって配られた名札を僕はカバンから取り出した。カバンで思い出したのだが、昔「はてなかばんの中身出し」という企画がはてなダイヤラーの間で流行ったことがあった。カバンの中身を公開するブログを書くというやや破廉恥な企画である。そして、ある彼女持ちのヲタがそれをやっていたのを何気なく見てみたら、カバンの中からコンドームが出てきて、若干イラッと来たのだが、こともあろうにそのコンドームのことを「近藤さん」と呼んでいたので、「何が近藤さんだよ! バカにしやがって!」となり、しばらくのあいだ家で一人でパソコンの前で怒り心頭に発しつづけていた、ということがありました。また、みんなすごく綺麗な状態のかばんをブログに載せていたから、「うそくせえ! 普段は汚いくせに! かっこつけやがって!」となり、僕はあえて現状のすごい雑然としたかばんの中身を公開し、それはそれでちょっとドヤ顔する、というやや恥ずかしいことをしました。

 コテージの中で僕がおもむろに取り出した名札は、幼稚園の子らがつけているのと同じような可愛らしいものだった。星の絵が左右に配置され、中央には今回の七夕バスツアーのロゴがうっすらと印刷されている。ロゴの真ん中には天の川が流れ、その左側に彦星、右側に織姫の姿のりかうさの生首がある。りかうさというのは、梨華ちゃんが昔から描きつづけている可愛らしいウサギさんのことである。僕はマジックを手に取り、その名札の中央やや下部分に、丁寧に「ふちりん」と書いた。もしかしたら梨華ちゃんはこの名札を見て「ふちりんさん」と呼んでくれるかもしれないぞ。呼ばれたらどうしよう。間違えて「ふりちんさん」と呼ばなければいいんだけど、と思いながら。そしてその左上にホイミスライムを描いた。なぜなら僕はホイミスライムだからだ。けっこう前にホイミスライムになったのである。そして吹き出しをつけて、ホイミ☆と書き込んだ。僕の名札に描かれたホイミスライムを見た梨華ちゃんが「ん? ホイミってなんですか?」って訊いてきて、「これはですね、回復魔法です。ドラクエをやったことはないですか。そうですか。梨華ちゃんが好きなゲームは川のぬし釣りでしたね。これは回復魔法なんです。元気になります」と僕が答えると、梨華ちゃんは「えーほんとにー? じゃあかけてみて!」と言い、僕は「ホイミ!」ってすることになるかもしれないぞ、と思いながら。しかし結論から言うと、この一泊二日のバスツアーの間、梨華ちゃんは僕の名前を呼ぶことは一度もなかったし、ホイミスライムに興味を持つこともなかったため、ふみゅうとなりました。