2014年1月19日のバースデーイベントで、梨華ちゃんに節酒を宣言しました

 梨華ちゃんは、ピンク色の四角い箱の中から、アンケート用紙を取り出す。
 「ふちりんさん」と、まるで初めてその名前を目にしたかのように、たどたどしく読み上げる。『あれ? ふちりんという名前で梨華ちゃんのブログに毎回コメントしてるんだけどな…』と僕は思う。梨華ちゃんはその名前の主をキョロキョロと探し始めたので、僕は手を上げた。梨華ちゃんは僕の姿を確認すると、アンケート用紙に目を落とし、僕の今年の抱負を読み始める。
 「今年は、お酒の量を減らすことを決意しました」
 梨華ちゃんは、目を丸くして僕を見つめ、小さく何度かうなずく。

 「ビールを3杯までしか飲まないようにしたいです」
 ここまではスラスラ読んだ梨華ちゃんだが、顔をしかめ、次の文章をややつっかえながら読む。
 「20代のころから、アホほど飲んでいたせいか、最近、内臓の? 弱まりを感じます」

 「飲んだ翌朝がつらいです。梨華ちゃんに宣言したら、やっぱりお酒減らすのやめます、とは言えなくなるから、ここで宣言することにしました!」
 ここは流れるように読み、最後は自分で宣言するかのように力強く言い、僕の目を真っすぐに見る。ヲタのみんなが、「おおー!」という歓声とともに拍手をしてくれる。そして、
 「梨華ちゃんも飲み過ぎには気を付けてくださいね!」
 と苦笑いを浮かべながら読み上げる。ヲタのみんなから拍手とともにドッと笑いが起き、なぜか「フゥー!」「フゥー!」と高い歓声が飛び交う。

 梨華ちゃんは、アンケート用紙をテーブルに置きながら、思慮深げに小さく5回ほどうなずく。梨華ちゃんは矢庭に顔を上げると僕の方を見やり、
 「毎日、飲みますか?」と尋ねる。
 「週末だけです」と、最前列のやや右寄りに座っていた僕は答える。『梨華ちゃんはみんなの梨華ちゃんなのだから、あまり独占してはいけない。簡潔に答えなければいけない』と思いながら。
 「週末だけ? 3杯までしかってことは、(ふだんは)大体何杯くらいまで(飲むの?)」と梨華ちゃん
 「ふだん10杯くらいです」と僕は答える。
 「それは結構…。でも週末だけでしょ?」と梨華ちゃんは言い、さらに続ける。
 「私はチビチビ毎日飲んでたからね。でも私も、あのー、さ、テレビで、『今夜くらべてみました』っていうテレビで、まあ休日の過ごし方みたいなので、お酒飲んじゃ寝て、食べて、戦争映画見て、食べて、飲んで寝て、それをさあ、なんか、自分の中で、それをなんか、オープンにしたことによって、あ! 改めなきゃなと思って、私も今だいぶお酒、飲んでない」
 梨華ちゃんがそう言って、得意気な顔で僕を見つめると、ヲタのみんなからは「え〜」という不信の声が上がる。
 「え、誕生日とかは飲むよ? 誕生日とかは。毎日とかは…。焼酎飲んでないもんね」
 客席の誰かが「焼酎…」とつぶやき、『梨華ちゃんって焼酎まで飲む人なの…?』みたいなやや引いた空気が漂う。
 「あぶないあぶない。焼酎にほら、最近目覚めて、大人でしょ?みたいなこと言ってたけど、最近は、お風呂上がりに…、缶ビール1本くらい? かわいいでしょ?」

 梨華ちゃんは人差し指を1本立てて、まるでアイドルみたいにニッコリ笑う。ヲタのみんなからは温かい失笑が漏れる。
 「ダメ? え? ……おっさん!? 失礼ね! 言うならおばさんって言ってちょうだい!」
 梨華ちゃんがやや“おこ”になってそう言うと、ヲタのみんなは大爆笑。梨華ちゃんもつられて笑顔になる。僕も、梨華ちゃんを見つめながら、笑顔。

 その日から僕は節酒をはじめた。しばらくすると、ビール3杯までに留めるというのは逆に苦しいような気がしてきたため、思い切って禁酒に移行する。じっさい、節酒よりも禁酒の方が楽だった。禁酒の苦しみにもだんだん慣れていった。10ヶ月ほど禁酒をつづけたが、12月の末、忘年会シーズンに我慢できずに1杯飲んでしまう。しかしビール3杯までという制限はなんとか守り、とうとう新年(2015年)を迎える。「ああ、やった! 僕は梨華ちゃんとの約束(のようなもの)を果たしたんだ!」となり、また酒を飲み始めました。梨華ちゃんとお酒の話ができて嬉しかったけど、いつかは梨華ちゃんと2人で飲みながら、いろんな話をしたいです。