その46 お楽しみイベント

 午前7時30分に集合って早すぎる。昨夜は酒を飲み過ぎたし、10時くらいまでのんびりさせてほしい。と思いながら、コテージの階段を下りました。階段に面する舗装路に降り立った僕は、木々に囲まれたコテージを見上げ、記念に写真を撮りました。さようならコテージ、けっこう居心地よかったよ。もう二度と会うことはないだろうから、もう一度言うね。さようなら。

 コテージの本部みたいなところに行き、チェックアウトの手続きを済ませる。それから1号車のバスに乗る。隣(窓際)に座っているのは、同じコテージだった志村さん(酒飲み)。志村さんも結構飲んでいたけど、二日酔いになっている様子はない。僕は一睡もしてない上に二日酔いになっており、うんこの予感が尻のあたりに漂っていました。
 バスに乗ってしばらくすると、一人のヲタがものすごい勢いで駆け込んできました。そして僕の斜め後ろあたりに座る。100m走を走り終えた直後の人のように、肩でぜえぜえと息をしている。汗が滝のように流れている。大丈夫だろうか、とそのヲタの体調が心配になる。よほど焦っていたんだろう。しかし、このバスツアーは7万円近くも支払って参加しているのだから、そんなに焦らなくてもいいのではないか。そういう問題でもないのだろうか。きっと梨華ちゃんに似て真面目な人で、みんなに迷惑をかけるのがすごく嫌だったのだろうな。

 そのヲタの激しい息遣いとともに、お楽しみイベントの会場へ向かってバスが出発する。バスの前方のモニターに、梨華ちゃんの姿が映る。「昨日はよく眠れましたか?」みたいな感じのことを言う(4年前のことなのでよく覚えていない)。僕は梨華ちゃんのことが好きすぎて、一睡もできませんでした、と心の声で答えるが、梨華ちゃんは当然、おかまいなしに話を進める。「次のイベントも一緒に楽しみましょうね」みたいな感じのことを言う。

 しばらくして、『お楽しみイベント』の会場に到着する。僕はうんこの予感が確信に変わりつつあったため、うんこに行けるタイミングを探っていたが、結局そのタイミングがないまま、『お楽しみイベント』の会場の座席にすわる。運のいいことに最前列である。「プラネタリウムなんて、久しぶりだなあ。しかし、朝っぱらからプラネタリウムを見るなんて、あまりロマンチックじゃないなあ」と思っていると、左端の通路を梨華ちゃんが歩いてきました。

 梨華ちゃんは、腰が隠れるくらいの丈の、パジャマみたいな上着を着ている。ピンクと水色のチェック。下はロールアップされたジーンズを履いていて、細くて可愛らしい足首が見える。表情は、寝起きで多少ぼんやりしている。寝起きで多少ぼんやりしている梨華ちゃんを見ることなんて、バスツアー以外ではあんまりないだろうな。貴重だ。
 「みなさんおはようございます」的なことを言った後、梨華ちゃんは、険しい表情で「バスの出発時間に遅刻した人は誰ですか?」とみんなに向かって尋ねる。後ろの方で、一人のヲタがおずおずと手をあげる。「コテージに忘れものをしちゃって…」と言い訳をする。「気をつけてくださいね。時間が遅れて施設の人に迷惑をかけたら、石川梨華の責任になるんですからね」と注意する。ヲタは「すみませんでした」と謝る。
 梨華ちゃんはなんて真面目な人なんだろう。恐ろしい。遅刻しなくてよかった。さっきの、1号車のバスまで全力疾走してきて肩で息をしていた人は間違ってなかった。もし遅刻していたら、梨華ちゃんに厳しく責められていただろう。

 僕は最前列だったことを喜んでいたが、プラネタリウムの上映が始まろうとすると、梨華ちゃんは後ろの方の席に座った。僕のいる最前列からはかなり遠い席である。だから僕は、梨華ちゃんの存在をほとんど感じることができないまま、プラネタリウムの夜空を1時間くらい眺めました。切なかったです。梨華ちゃんの姿が見える位置がよかったです。ちなみに梨華ちゃんは、プラネタリウムを見ながら何回か眠りに落ちてしまったらしい。うとうとしている梨華ちゃんの隣でプラネタリウムを見られたら、どんなに幸せなんだろう、と思いました。プラネタリウムを見終わった後、僕はうんこをするためにトイレの個室に並びました。ああ昨日、あんなに飲まなければよかった。結局一睡もできなかったし。