みなさんこんばんは。ふっち君(44歳)です。1月13日の月曜日には、僕がガチ恋おじさんとして登場する書籍『恋愛社会学』に関するトークイベントがありました。僕がインタビュイーとしてガチ恋の苦悩を語っている章、「アイドルに対する恋愛感情を断罪するのは誰か」を執筆した上岡磨奈さんが登壇するとのことで、僕はとても見に(聴きに)行きたかったんだけど、残念ながら行くことはできませんでした。なんとなれば、石川梨華ちゃんのバースデーイベントが同日の同時刻に開催され、僕はそれに出席しなければならなかったからです。イベントの正式名称は、『石川梨華バースデーイベント2025~ダブル成人式です♡いぇい!いぇい!~』。梨華ちゃんのイベントの真裏で、ガチ恋についてのトークイベントが行われていたことを思うと、梨華ちゃんがガチ恋というものを強く引きつけているようにも感じます。
【イベント申し込み受付中!】永田夏来×上岡磨奈×松浦優「オタクに恋愛は難しい? 推しに対する「ガチ恋」について考える夜」
— 青弓社 (@seikyusha) 2025年1月6日
ガチ恋、リアコ(リア恋)、同担拒否、TO(トップオタ)、最前管理……
アイドルに対して本気で恋する=「ガチ恋」とはどのような営みなのか?…
僕は当日の朝、自分の部屋に貼ってあるカレンダーを見て、今日が梨華ちゃんのバースデーイベントの日であることをしっかり確認してから、一日の活動を開始しました。鼻毛を念入りにカットし、髭を限界まで剃るなど身だしなみを整えました。それから英語の勉強をしたり、インスタに写真を投稿したり、ふちりんファンクラブの掲示板に書き込みしたり、ベースを弾いたりしていたら14時半くらいになったので、お気に入りのダッフルコートを着用して家を出ました。冬に梨華ちゃんに会うときは、いつもこのダッフルコートを着ています。
もよりである大宮駅から渋谷駅まではそんなに時間がかからない、30分ちょいだろう。なぜかそう思い込んでいた僕は、渋谷駅に到着したときにわりと焦りました。埼京線の快速で大宮から43分もかかり、時計の針はすでに16時近くをさしていたからです。バースデーイベントの開演は16時半だし、会場のシダックスカルチャーホールは生まれて初めて行く場所です。下手したら間に合わないかもしれない、と思って焦りました。
成人の日だからなのか、この日の渋谷はやたらと人が多く、なかなか前に進むことができません。僕はさらに焦りました。焦ったせいか、不整脈が一回ポコっと出て、不安な気持ちにもなりました。僕はもともと、渋谷の街が好きじゃありません。吐瀉物に似たにおいが漂っているし、若者たちの雰囲気が恐ろしいし、人が多すぎるわりに歩道が狭いからです。この日は歩道がいつもより狭く感じました。人混みの中で老人のような速度で歩き、シダックスカルチャーホールの入っている特徴的な建物が見えてくると、僕はホッと胸をなで下ろしました。どうやら開演には間に合いそうです。
巨大な銀色のビルの向かいに立ち、横断歩道の信号が青に変わるのを待っていると、左ななめ前に中島さんにとてもよく似たおじさんが立っているのに気づきました。背が高くてガタイがよく、髭を生やしており、坊主頭で眼鏡をかけています。服装も中島さんっぽいカジュアルな感じです。中島さんは工藤遥ちゃんのオタクだけれど、Mラインクラブの会員だし、梨華ちゃんのバースデーイベントに来ていても不思議ではありません。しかし、中島さんにとてもよく似ているものの、中島さんではないようにも思えます。僕は「中島さん!」と声をかけようか迷いました。でも人違いだったら恥ずかしいので結局は声をかけずに横断歩道をわたり、銀色のビルの入口前でウロウロしました。“シダックスカルチャーホール”はこのビル内のどこかにあるはずだけど、どうやって行けばいいのか分からなかったからです。
事前にネットで検索したところ、それは8階にあるようだったけれど、Googleの人工知能に訊いてみたら「1階にあります」と言っていました。そして僕は、ウロウロしているうちに中島さん似のおじさんを見失いました。彼はやはり中島さんで、ひと足先にシダックスカルチャーホールに向かったのかもしれないし、彼はやはり中島さんではなく、渋谷の雑踏の中に消えたのかもしれません。いずれにせよ、いま大事なのは中島さん似の男性の正体をつきとめることではなく、シダックスカルチャーホールに無事たどりつくことでした。僕はとにかく銀色のビルに入ってみることにしました。
ビルの中に足を踏み入れると、イベントのスタッフの人が「石川梨華バースデーイベントに参加の方はこちらへお並びください!」と僕を導いてくれました。どうやらエレベーターで上にあがるようです。「じゃあやっぱり1階じゃなくて8階にあるんだ、シダックスカルチャーホールは。Googleの人工知能(Gemini)は間違っていたんだ」と思いました。そして僕はイベントが終わったあと、スマホでGeminiを起動させて「さっき実際に行ってきたんですけど、1階じゃなくて8階にありましたよ」と教えてあげました。するとGeminiは「はい。シダックスカルチャーホールは8階にあります」と答えたので、「おい! 最初から知ってたみたいな顔をするなよ!」と思いました。やはりAIはまだまだ信用なりません。
僕は、数人の梨華ちゃんヲタと一緒にエレベーターに乗り込み、8階まで上がりました。そして入場に必要な“3点セット”を用意します。マイナンバーカード、Mラインクラブのデジタル会員証、チケット入金確認メール。以前はデジタル会員証が存在せず、紙の期限証を提示する必要があったんだけど、スマホの画面を見せればよくなりました。まあそれでも3点も用意するのは面倒だけど。確認するスタッフも大変そうです。いつもご苦労さまです。スタッフと言えば、グッズ売り場で梨華ちゃんの2L生写真4枚セット(税込1,200円)を購入する際、僕はPayPayを利用したのですが、スタッフが間違えて「12円」という金額でバーコードを読み取ってしまい、その女性スタッフは「あっ」と言って数秒のあいだ固まり、「少々お待ちください」と言って他のスタッフに助けを求めに行きました。
「PayPayの決済って、金額を間違えるミスが起こりそうだよなあ」とはずっと思っていました。でもそのミスに実際に遭遇したのは初めてでした。女性スタッフが上司らしき人と一緒に戻ってくると、「それなら残りの金額でもう一度読み取ればいいのよ」と小声で指示され、女性スタッフは再び僕のバーコードを読み取りました。スマホの画面には「1,188円」と表示され、「ペイペイ♪」という場違いに明るい音声が発せられました。女性スタッフは「お待たせしました」と言ってレシートを渡してくれましたが、それは1,188円分のレシートでした。「あのう、残りの12円分のレシートも欲しいんですけど」と思ったけど、細かい男だと思われそうなのでやめておきました。さらに細かいことを言うと、「1,200円」が「12円」と「1,188円」に分割されて決済されたことにより、貰えるPayPayポイントが1ポイント減少しました。でも細かい男だと思われそうなので何も言わずに立ち去りました。
僕は頻尿の気があるので、トイレに行って時間をかけておしっこを絞り出してから自分の席に向かいました。B列の13番に座ると、そこはものすごく良い席でした。2列めの右側、真ん中寄りの席です。「神席」が最前列の真ん中らへんだとしたら、僕の席は「天使席」とでも言えましょうか。なんとなく神席のほうに目を向けてみると、そこにはハワイちゃんとヒッシー会長が座っていました。斜め後ろから見ただけなので確信は持てなかったけど、おそらくそのお二人でした。
ヒッシー会長は梨華ちゃんにもオタクにも敬愛されている、言わずと知れたトップオタです。だいぶご高齢のようだけど、お元気そうでよかったです。会長は穏やかな笑みを浮かべて梨華ちゃんの登場を待っていました。ハワイちゃんは、言うなればセカンドトップオタです。サッカーで言えばヒッシー会長はワントップのセンターフォワードです。梨華ヲタ界の上田綺世と言えます。ハワイちゃんは上田のやや後方から飛び出していく感じです。梨華ヲタ界の古橋亨梧と言えそうです。ハワイちゃんはいつも通り元気で明るかったです。少し離れたところからでも分かるくらいに。僕は極めて暗く覇気のない人間なので、「その元気と明るさをいくらか分けてほしいな、羨ましいな」と彼女を見るたびに思います。
そして僕は神席に座っている二人を斜め後ろから見ながら、「ハワイちゃんとヒッシー会長はどんだけ引きが強いんだよ!」と思いました。もしかしたら、日頃のオタクとしての行いが良いために、「神席」が彼らの手に与えられたのかもしれません。僕に「天使席」が来たのは、僕のオタクとしての振る舞いも神に認められてきた証左なのかもしれません。
ところで、僕はインフルエンザを大いに恐れていました。このところインフルエンザが猛威を振るっていたからです。最近は外出時に必ずマスクをつけています。僕は腎臓がやや弱っていて、医師に水を多めに飲むよう言われており、マスクを下にずらして、ペットボトルの水道水を口に流し込みました。そのとき、斜め前からこちらに歩いてくる男性オタクとばっちり目が合ってしまいました。そしてその男性は、2012年の「石川梨華八ヶ岳バスツアー」で知り合った人でした。その後の別の現場で再会して、話をしたこともあります。でももう長いあいだ会話をしていないし、挨拶すらお互いにしないようになったので、目が合ったときは気まずかったです。僕も彼も、なんにも言わずにI LOVE YOU、じゃなくて何にも言わずに目を逸らしました。たぶん彼は僕のことを覚えていると思います。ガッタスのイベントがあったとき、代々木第一体育館から原宿駅まで2人で、梨華ちゃんについて語らいながら歩いたこともあるから。僕はもちろん覚えています。彼がかつてラーメン屋でバリバリ働いていたことすら覚えています。でも今はどうなのか分かりません。彼が梨華ちゃんの熱愛や結婚、出産をどのように乗り越えたのかも分かりません。それが彼にとってつらい日々じゃなかったらいいなと思います。今の彼が、梨華ちゃんのことを、少しの苦しみもなく愛せていたらいいなと思います。
僕は自分の席に座ったあともダッフルコートを脱ぎませんでした。コートを着ていてもなお、やや寒さを感じていたからです。僕は1〜2年前まで、死ぬほど汗っかきでした。多汗症で深く悩んでいました。以前の僕だったら、席につくやすぐさまコートを脱ぎ、額を流れ落ちる汗をしばらく拭っていたと思います。真冬でも滝汗をかくのが多汗症の人間です。夏は汗をかいていてもおかしくないけど、真冬に汗をだらだら流している人間は奇異の目で見られます。それはとても居たたまれないことです。外に出るのが恐ろしくなるほどです。でも最近の僕はなぜかあまり汗をかきません。むしろ寒いです。44歳になって代謝が悪くなってきたのかもしれません。そして寒いと不整脈が出やすいです。それは「ドドキュッ!……ドックン!」という感じの実に不快なものです。一瞬心臓が止まり、思い出したように動き出すので不安にもなります。「このまま心臓が停止しちゃったらどうしよう…!」と。もしも僕が死んだら、X(旧Twitter)でみんなに「ふちりんは今ごろ、天国でリカニーしてるんだろうなあ」なんて言われるのでしょうね。酒好きの人が死んだら「あいつは今ごろ天国で酒を飲んでるんだろうなあ」と言われるみたいに。でも僕はね、正直な話、天国でくらい梨華ちゃんを抱きたいですよ。梨華ちゃんのイデアのようなものを。天国に行ってまでリカニーなんてしたくないですよ。