ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

歯医者


 午前10時頃、予約の電話を入れる。受付のひとが名前をちゃんと聞き取ってくれない。「僕の名前はですね、ふっちです」「ひっちさんですね、わかりました」
 めんどくさかったからそのままにしておいた。


 午後2時で予約した。それまでの4時間、何度も逃げ出そうと思った。でも将来的には特攻隊に志願して国のために華と散ろうと考えている人間が、歯医者ごときでビビッていてはいけないと思い、腹をすえた。
 僕は特攻隊員が出撃するときに見せたような清々しい笑顔で梨華ちゃん(のポスター)に手を振り、家を出た。


 待合室で順番を待っているとき、キュイイインというあの嫌な音が聞こえてきた。プシュー、キュインキュイン、ズドド、ガッタス! 僕はやはり逃げようかと思った。だけど僕の隣には小学校低学年の男子が背筋をピンと伸ばして座っていたし、大の大人がみっともない姿を見せるわけにはいかなかった。


「ひっちさん、どうぞ」と言われたので、「はい」と答えて診察室に入った。診察台にのぼった。診察された。「つめものが取れたんです」「あ、虫歯が出来てますね。削りますよ」削られた。


 削られているあいだ、ずっと梨華ちゃんの名前をつぶやいていた。心の中で。痛みが最高潮に達した時は声に出して「梨華ちゃん!」って言いそうになった。あぶなかった。こんなところで愛を叫んじゃだめだ。ここはさいたまの片すみじゃないか。


 応急処置として、セメントが被せられた。「これはすごい強力なセメントなんで、30分したら何食っても大丈夫ですよ。ガムだってアメだって、なんでも。絶対取れないんで」と先生は言った。でも僕は思うんだけど、さすがにハイチュウを食ったら取れるんじゃないか? ハンパじゃねえんだぞハイチュウは。