出発

 受験票を持って家を出る。玄関口でママが言った、「ふっち、試験がんばってね」と。それは聖母マリアのように優しいやわらかな声だった、ちっともおおげさでなく。なんだかこれと似たようなことが以前にもあったような気がする。あれはそう、確か卒業式のとき・・・。

 家の外に出ると、太陽の光がまぶしい。僕はほとんど自動的に空を見上げた。素晴らしい青色がいちめんに広がっている。僕は少しばかりいい気分になったけれど、やはり心は10㌧トラックのように重い。試験をバックレることは決定されているんだけど、それでも重い。いやむしろ、それだからこそ重いのかもしれない。とにかくヘビーだった。僕は首をぐるりと回転させて秋空を見わたして思った。動物園に行こうかな。だけど今日は日曜日だ。きっと混んでいるだろう。お金もかかる。やっぱりやめよう。昨日から計画していた通り、山の手線をぐるぐると回り続けよう。