山手線

 午後一時、池袋についた時点で試験は始まっていた。僕はああ、今年もダメだったか、と思い泣きそうになったというのは嘘で、とくに何という感慨も抱かなかった。僕は駅の時計が一時をさしているのを目のはしに捉えながらも淡々と階段を上り通路を歩きそして階段を下りて山の手線に乗った。

 僕は、はじっこが大好きだ。だから長椅子のはじっこに座るべく、はじっこを占拠しているおばさんの前に立った。「早くおりろよ馬鹿」とか、「ごめんなさいゆっくりしてくださいお綺麗なおばあさま」とか思いつつ立ち続ける。新宿でやっとというか早くもというか、まあ妥当な早さでおばさんは降車していった。僕はおばさんが席を立つやいなや、そばにいたイギリス人二人組に席をとられないよう素早く腰を下ろした。でもイギリス人は端っこに座ることにこだわってはいなかったみたいで、僕のことなど気にもかけずにペラペラとカツゼツ悪く何ごとか喋りながら歩いていき、僕のはす向かいのところに着席した。

 僕はいま、内回りだか外だか知らないが、とにかく山の手線に乗っている。はじっこに座っている。何もかも計画通りにことは進んでいる。僕はここである種のむなしさを感じるべきなのかもしれないけど、そんなものはみじんも感じない。いまの僕はとても安らかな気分でいる。電車の走る音、人々の楽しげな喋り声、素朴な車内アナウンス、窓からちらちらと現れては消える日の光、これらすべてのものごとが、僕の中の空白をやさしく温かく埋めていってくれる。今は秋葉原だ。