ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

その6 色んなクジを引くの巻

 紳士であることをアピールしようと思って、梨華ちゃんに「ありがとうございました」と頭を下げた後、すぐに梨華ちゃんのそばを離れ、颯爽と歩き、未練たらしく振り向くこともしませんでした。しかしてその実態は、颯爽とはしていなかったと思います。まっすぐ歩けていなかったんじゃないでしょうか。

 黒服の男に導かれるまま梨華ちゃんルームを出た僕は、生まれたての赤ちゃんのような心持ちになりました。そんな心持ちは当然に失念しているのだが、とにかくそのような心持ちになり、オギャー!とでも言いそうになりました。しばらくしてハッと我に返り、ショルダーバッグを係りの者に預けていたことを思い出し、バッグの置いてあるテーブルへ、磁石に引かれる細い釘のように歩み寄り、そのバッグを肩から斜めにかけました。

 次にどうすればいいかまたわからなくなり、誰かが「クジを引いてください」と急かすような口調で言うから、クジの置いてあるテーブルに向かってフラフラと歩いた。その細長いテーブルには険しい表情をした男が2人座っており、僕を不審そうな目つきで見ていた。「IDパスを見せてください」と威嚇的に言うので、僕は震える手でパスカードをバッグから取り出し、首にかけた。「クジを2つ引いてください」と指示され、何がなんだかよくわからないまま、無闇に手を伸ばし、指に触れたクジを手に取った。そのクジは、細長く折られた状態でテーブル上に散らばっていた。手に取ったピンク色のクジと黄色のクジをなくさないように胸ポケットに入れた。なんだかオギャー!と言いたくて仕方がなかったが、その暇を与えたくないかのように、グッズ売り場が目の前に展開されていた。僕は全部セットを買うべきことを思い出した。車内で受け取った注文用を取り出した。僕はすでに車内でその用全部セットのところにチェックを入れてあったため、そのを提示してお金を払うだけだったのだが、それだけのことがとても難易度の高い行為のように思われ、不安な気持ちになり、またオギャー!と叫びたいような気持ちになったが、その叫びは叫ばれなかった。理性の塊のようなもう一人のカッチリとした自分が、淡々と事務作業を行っていくような感覚があり、オギャー的なふちりんは、おしめをしてくれるパパでも見つめるかのような、不思議そうな目でもう一人のカッチリした自分を見つめていた。5600円の全部セットとは別に、プレミアムフォトブック織姫ver、プレミアムフォトブック彦星verというそれぞれ5200円の立派なグッズがあって、僕は全部セットとプレミアムフォトブック彦星verを注文した。全部セットという名前なのに全部じゃなくて、別の立派なグッズがあるとはこれいかに、と思ってやや混乱したが、ハロプロにはよくあることなのでそれほど気にならなかった。

 2000円ごとに1本クジが引けて、当たると梨華ちゃんの限定生写真が当たるということだった。僕は合計10800円の買い物をしたので、5本のクジを引く権利を手に入れた。販売員の人が、缶のようなものを差し出した。そこには棒状のクジが数十本入っていた。後ろに並んでいる人が多数いたから、できるだけ迅速にことを終わらせたかったし、祈りをこめて一本ずつ引こうが適当にまとめて引こうが確率的には一緒だと思った僕は、棒状のクジをまるで肉食系男子のように5本まとめてつかみ、引き抜いた。すると棒の下端は、とてもきれいで、何の印もありませんでした。販売員の人が「残念でした」というようなことを言い、僕は「5本も引いたのに1本も当たらなかったあ。わはは」みたいな雰囲気を出した方がいいような気がし、妙な苦笑いを浮かべてその販売員を見つめた。ここで僕がなすべきことは全て終了したようだったため、回れ右をしてフロント棟を出るために歩き出した。エスカレーターを降りようとすると、梨華ちゃんヲタの人たちが、梨華ちゃんの待つ部屋の壁に沿ってずらりと並んでいた。みんなが僕を見ているような気がした。「ふっち君だ!」と思われているような気がした。僕はブログやツイッターでしばしば顔を晒しているから、そう思われていてもおかしくはなかった。そして、今までの言動を考えれば、梨華ちゃんヲタの人たちに嫌われていてもおかしくはなかった。もし今ここで一斉に生卵を投げつけられても僕は文句を言うつもりはなかった。卵をぶつけられた僕は、ドロンドロンになり、まるで生まれたてのヲタのようになるだろう。そして新たに生まれ変わった新生ふっち君として、ヲタのみんなと握手をし、抱き合い、ドロンドロンになって、これから共に梨華ちゃんのことを支えていくことを誓い合いたかった。しかし、生卵が投げつけられることはなかった。僕のことは誰も気にしてはいなかった。

 エスカレーターを降りた僕は、フロント棟を出て、バスのところへ歩いていく。雨がすっかり止んで、青空が広がり、太陽が照りつけていた。山の中で標高が高いせいか、太陽がいつもより近くにあるように感じられた。僕はバスの外に立ち、しばらく太陽の光を体中に浴びた。僕の心のドス黒い闇が、みるみる溶かされていくような気がして、どんどん心が晴れやかになっていった。今なら、梨華ちゃんのことを何の苦しみや切なさもなく、天真爛漫に愛することができるような気がした。