姪っ子(2歳くらい)の子守をした。僕は先日届いたハッピーチャーミーダイアリーのCDジャケットを指さし、「梨華ちゃんだよ、言ってごらん、梨華ちゃん」
「ひふぁひゃん」と姪っ子。
「ちがう、梨華ちゃん、り、か、ちゃ、ん」
「いかしゃん」
「イカじゃないよ、梨華だよ、この際、呼び捨てでいいか、梨華」
「イカ」
「イカじゃないって言ってんだろ、怒るよ? 梨華ちゃんがイカ臭いとでもいうのか。誰だぶっかけた野郎は、そんなことしやがったらただじゃおかねえぞ」
「ぶっかけ」
「あ、だめ、ごめん、そんな言葉おぼえちゃ駄目だよ、一生知らないままでいるべき言葉だよ、君は世界で一番貞淑な大和なでしこにならねばならないんだ。ほら、梨華、りか」
「りさ」
「ちがう、それはガキさんだ。ほら、梨華。近いうちに僕のお嫁さんになる人だよ、だからちゃんと名前覚えてほしいんだ。り、か」
「りか」
「そう! 梨華! やればできるじゃないか、いい子、いい子。梨華ちゃんは、かわいいでしょう、言ってごらん、かわいい」
「かわいい」
「いいね、君には卓抜なる美的センスがあるようだ。芸術家になれるかもしれないな」
「あご」
「アゴ? 何、アゴって。アゴが気になるの? 梨華ちゃん、そんなに出てないよ、おい指さすのはやめろ!」
「わーい」と言って姪っ子はハッピーチャーミーダイアリーのCDケースを放り投げた。
「おい何やってんだ! 梨華ちゃんを投げるな!」
「きゃっきゃ」姪っ子は楽しそう。
「こっちはぜんぜん楽しくないんだよ、ああ、梨華ちゃん大丈夫・・・?」
と言いながら床に落ちたハッピーチャーミーダイアリーを拾い上げてホコリを落とす僕。
「梨華ちゃんはアゴが出てるかもしれないけど、そんなの気にならないくらい可愛いよ。大好きだよ」
「りか、あご」
僕は姪っ子のあごをつかんで引っぱった。お前のあごも伸びろ。