ダフ屋

 会場前に行くと、変なジャンパーのおやじさんがふらふら歩み寄ってきた。人なつっこい笑顔をうかべて。
 「お兄さん、チケットあるの。ないんでしょ。だめだめ、定価で買うことなんかないよ。5000円でどうだい」
 僕はおやじさんの声や顔つきに純粋な優しさを感じて、心をゆさぶられた。そして僕はこのおっさんが好きになった。好きだ。大好きだ。居酒屋に行ったら意気投合して朝まで語り合うことになるだろう。もしかしたら一生の心の友になるかもしれない。けれど僕はお金がなかったし他人の目も気になったので買わずに別れた。もちろん携帯の番号もきかなかった。