具のない味噌汁

 朝6時ごろ起きる。6時じゃないかもしれない。8時だったかなあ。どっちかな。自信ない。間をとって7時にしよう。よく考えたら、6時だろうが火事だろうが親父だろうが別にどうだっていい。だからとりあえず7時にする。僕は朝7時に起きた。それから何したっけ。思い出せないな。そうだ、本を読んだんだ。1時間くらい読んで、お腹が減って、味噌汁をつくった。つくったというか、昨日の残りをあっためて、飲んだ。2杯飲んだ。味噌汁はほとんど底をついていて、2杯目には具がほとんどなかった。具のない味噌汁って、けっこうみじめなものだなと思った。それから煙草を吸いながらまた読書をした。あ、今ちょっとビールが気管に入り込んでむせた。涙が出てきた。


 日記の続きに戻る。読書して、それからどうしたっけな。そうだ、物語の中で、セックスシーンが出てきて、梨華ちゃんを女の人に重ねて読んでしまい、しまいっていうか、積極的に自らすすんで重ねて読んで、不可避的に勃起して、リカニーがしたくなったんだ。でもしなかった。昨日2回やったし、朝っぱらからリカニーってのもどうかと思った。別に朝からリカニーしたって誰にも迷惑かけないし、僕は気持ちよくなれるわけだし、何にも問題はないんだけど。そうだよな、問題ないよな。だけどとにかく僕はリカニーするのはどうかと思った。もしくは面倒くさかった。まあ、色んな意味でめんどうくさかったんだろうな。色んな意味っていうのがどういう意味たちの集合なのかはよくわからないけど、とにかく色んな意味で。それから10時ごろに、寝たんだ。眠ろうと思ったわけじゃない。目を休めようと思って目を閉じただけだ。だけど結果的には眠ってしまった。そして夢を見た。


 いつものように梨華ちゃんが出てきた。僕はディナーショーに来ていた。パリパリしたジャケットを着ていた。動くたびにパリパリっていう音がした。胸のあたりに、名札みたいな感じで値札がついていた。199800円と書いてある。19800円じゃなくて? 僕はまさか、血と汗の結晶のバイト代20万をすべてこのジャケットにつぎこんだのか? 冗談だろ? 199800円? 僕は梨華ちゃんを目の前にして、「あ、あの、あの、僕は、梨華ちゃんのことを、好き、かもしれない、というか、好き。好きです」「ふふふ、ありがとう。わたしね、あなたみたいな不器用でシャイな人って、とても好きよ」え! ほんとに? うれしいな。てっきりこういう口下手うすのろ馬鹿は梨華ちゃんの嫌悪の対象になるもんだとおもってた。まさか、こんなことって。けっこうな奇跡だよね。すごい幸せな気分。梨華ちゃんがとても好きよって言ってくれた。でもそれだけ。何も起こらない。デートの約束もしない。電話番号の交換とかもしない。そこで唐突に、未来を拒絶するみたいにして、夢は終了する。


 目がさめたあと、すぐに煙草を吸う。夢の内容を忘れないように、なんどもそのストーリーをなぞる。それでも、ちょっと油断するとすぐ忘れそうになる。いっそ夢の内容をメモしようかなって思う。だけどわざわざそんなことするのも馬鹿らしく思えたので、メモはしなかった。忘れたら忘れたでいいや。そんなにココロオドルような夢じゃない。どっちかといえば切ない部類の夢だ。むしろ忘れたほうがいい。忘れよう。こんな夢は、見なかったことにしよう。二度と、思い出したりなんかしないぞ。


 それからまた本を読む。それからバイトに行く。午後5時から仕事をする。さいきん、フライパンをつかって料理をするのが楽しい。焼きうどんとか、いろいろつくる。でも、食器がもどってきて、食べ残しがあると、ちょっと切なくなる。おいしくなかったのかな。もし梨華ちゃんの手料理を食べる機会があったら、残さずきれいに食べようって僕は思った。まずくても、全部食べてから、まずいよ、梨華ちゃん、塩、あるいはコショウが足らないね。もしくは砂糖かな。とにかく何かが足らないんだ。こんどはもう少しまずくない料理をつくってね。って言う。ちょっとぶっきらぼうに。でも食器にはご飯粒ひとつ残っていない。


 午前6時に仕事を終えて、家に帰る。犬のロッキーが出迎えてくれる。ロッキーは朝でも夜でも出迎えてくれる。ロッキーのそばにねっころがってそのふさふさの身体をなでる。なでながら、死について考える。ロッキーの死んでいる姿が頭に浮かぶ。だけどあんまりリアルじゃない。ロッキーが死ぬわけないじゃないかって思う。だって10年前とかわらず元気だし、かわらず馬鹿だ。死ぬなんて考えられない。これからもずっと永遠に馬鹿でいるはずだ。でも死ぬんだ。確実に死ぬ。近いうちに間違いなく。そんなロッキーにたいして、僕は今なでてやることしかできないんだって思うと、やりきれない気持ちになる。僕はなんて無力で非力なんだろうって思う。誰にも何にもしてやれない。大好きな梨華ちゃんにだって何もしてやれない。リカニーくらいしかしてやれない。


 午前10時、日記を書き終えて、寝る。ひじょうに疲れた。おやチャミ。あ、リカニーがしたい。