なにしろ肺がもやもやする。左も右も同じくらいもやもやする。こころもち左の方がモヤりかたが激しいけど、だいたい同じ。苦しい。死ぬんじゃないかと思う。最初は、ただの恋わずらいによる胸キュンの一形態かと思ったけど、どうやら違うみたいだ。胸キュンは胸キュンとして別に存在する。甘くて切ないスイーツ的なものがそこにはある。そうです、それは肺なんかじゃなくてハートにあるんだ。ハートでうずいてる。ああ、梨華ちゃん。好きだよ・・・。とにかくそれとは別に、肺がモヤってる。
「お母さん、肺がもやってんだけど。死んじゃうのかな僕。死にたくないよ」ってお母さんに言ったら、
「それはあなた、恋わずらいでしょ。もやってんのは肺じゃなくてハートでしょ。で、誰に恋しちゃってるの? 教えて。ねえ。いいでしょ。誰にも言わないから。もしかして、石川梨華さんじゃないわよね。まさかね」
「まさか、冗談じゃない、梨華さんに恋なんてしてない。梨華さんをおかずにして毎晩毎朝1日2回規則正しくオナニーなんてしてない。とにかく梨華さんじゃなくても誰にも恋なんてしてない。もやもやしてんのはハートじゃなくて肺なんだよ。本当に。ねえ、肺がんかもしれないよ。死ぬのかな」
「死なないわよ、大丈夫、恋わずらいくらいで人は死んだりしないの。そうなの、へえ、あなたやっぱり梨華さんをそういう目で見てるのね。へえ。ふううん」
「だから、違うんだって、僕は肺がんなだけなんだって! たぶんステージスリーだよ」
ていう会話は、しなかったんだけど、それにしてもほんとにもやもやするよ。肺が。死んじゃうのかな。
でも正直、それは望むところではある。ぶっちゃけた話になるけど。死ぬためにたばこ吸ってるみたいなところはあるんだ。はやく死んじゃいたいんだ僕は。梨華ちゃんの入籍発表記者会見を目にする前に。
「わたし、処女であることに疲れたんです。うんこを我慢するのもそろそろ限界だったんです。わたしは、このままでは致命的に損なわれてしまうと思ったんです。わたしを安らげてくれる世界が、どうしても必要だったんです。わたしの空白を埋めてくれるペニス的なものと、安心して排便できるトイレがです。わたしは、とうとうそれを見つけたんです。それは、徹平くんの・・・ぽっ(頬を赤らめる音)、あの、かわいいペニスみたいなものと、そして徹平くんの家の小市民的なトイレです」
こんな想像したら、よりいっそう死にたくなりました。僕の肺は、もっと貪欲にモヤればいいと思います。はやいところ肺がんになりたい。たぶん恋わずらいよりは苦しくないと思う。楽になりたい。煙草は、1日3箱を目標に吸っていきたい。金ならある。