ピクニック

 僕は梨華ちゃんと、ピクニックに行きたい。丘の上の野原に辿り着いた僕らは、かわいい動物の絵が印刷されているビニールシートを木陰に敷いて、そこに座る。梨華ちゃんは、花柄の弁当箱を二つ取り出す。梨華ちゃんは、大きいほうの弁当箱を僕に手わたす。フタを開ける。梨華ちゃんの手作りの小さなおにぎりが、ぎっしりつまっている。僕はそれを次から次へと口の中に放り込み、むせる。「もう、なにあわててるの、ゆっくり食べて。おにぎりは、どこにも行かないんだから。逃げたりしないんだから」と梨華ちゃんは言う。でも僕は、そのおにぎりは、早く食べないと消えてしまうような気がして、急いで食べる。お弁当を食べ終わると、僕と梨華ちゃんは、誰もいない野原をゆっくりと歩く。空は青く晴れて、風はひんやりと心地よい。いい匂いがする。草の香りに梨華ちゃんのつけた香水の香りが混じって、それは僕の心を、効率よく、しかし自然に温めていく。僕の右手には梨華ちゃんの左手が繋がっていて、そのことに意識を向けると、とても安心した気持ちになる。すると突然、僕の右手はつながりを失い、ひどく混乱する。でもそれは一瞬のことで、目の前に梨華ちゃんがいることを確認して、僕は安心する。だいじょうぶ、梨華ちゃんはここにいる。僕のそばに。どこにもいかないんだ。梨華ちゃんは、小さなお花の前にしゃがみ込んで、そのピンク色の花びらをつんつんと指で突いている。つんつん。僕は、そのお花を摘んで、梨華ちゃんの頭に挿してあげようと考える。僕はおもむろに、その小さなお花の茎を折って、持ち上げる。梨華ちゃんは、おどろいて僕を見つめる。そして少し悲しそうな顔をする。僕は少し胸が痛みながらも、梨華ちゃんの側頭部に小さなお花を挿す。梨華ちゃんの顔が、笑顔になる。僕は満足して、笑う。かわいいな、梨華ちゃん梨華ちゃんには、やっぱりピンク色が似合うね。きれいだよ。僕と梨華ちゃんは、互いに見つめあって、笑顔と笑顔で言葉を交わす。僕は、変な虫が、小さな花の中から出てくるのを見る。親指くらいの大きさで、奇妙な形をしている。とても入り組んだ形状で、色は黒ずんでいる。どこが顔なのかわからない。顔があるのかどうかすらわからない。顔のない虫なんて、存在するのだろうか。いずれにしても、その虫は、小さなかわいい花には似つかわしくない。おそろしくグロテスクだ。その虫は、もそもそと緩慢に動いて、梨華ちゃんの顔のほうへ向かっている。僕はその虫を取り除かなければならない、と思い、梨華ちゃんの頭に手を伸ばし、その虫をつまみあげる。梨華ちゃんは不思議そうに僕を見ている。奇妙な虫は、僕の手から逃れようと体をくねらし、足をバタバタさせている。梨華ちゃんの視線は虫の方にゆっくりと移動する。梨華ちゃんは小さく悲鳴をあげる。僕はその醜い虫を、殺したいような気持ちになって、殺すことに決める。僕はその虫を思い切り握りしめ、地面に叩きつける。僕はその虫を踏みつける。死ね、死ね、死ね、死ね。その虫は粉々になって、土と区別がつかなくなるほどになったけれど、僕は執拗に、なんどもなんども踏みつける。死ね。死ね。死ね!