りかりん in FLASH

 僕は梨華ちゃんにキスをするのをためらった。そして結局しなかった。というのは、くちびるにリップクリームをぬりたくっていたからだ。こんなビルクチあぶらまみれの状態で梨華ちゃんにキスをしたらどうなるかってことは、はてなダイアラーの中でもっとも馬鹿な人間の一人である僕でも簡単にわかる。梨華ちゃんのポスターは油にまみれてフニャフニャになってしまうだろう。下手すれば穴が開くかもしれない。じっさい僕のキスはあまり上手な方ではないと思われるし、下手をする可能性は決して低くない。

 そんなわけで僕は口づけをするかわりに投げキッスをして、家を出て行った。雨がふっていて、空は陰鬱に暗くて、ちょっと寒かった。僕は傘をさして歩いた。水たまりがあれば、それをよけて通った。水たまりは多数あったので、僕の歩くすがたは周りから見たら多少滑稽であったかもしれない。コンビニで電話料金をはらったあと、本屋さんへ向かった。そこで僕はFLASHを買った。なぜなら梨華ちゃんのグラビアが載っているからだ。Hな水着姿が載っているからだ。いや違う、Hだからじゃない。梨華ちゃんがそこにいるから、買ったんだ。Hなことが目的じゃないんだ。

 僕は帰り道、ちょっとばかり大げさに歩くことになった。水たまりは反復横飛びみたいな感じできびきびとさける。僕の心は相当にうきうきしていた。梨華ちゃん梨華ちゃん、らん、らん、らん。好きだよ梨華ちゃん、らりらりらん。僕は歌いながら歩く。即興の梨華ちゃんソングである。梨華ちゃん、りかりん、らりるれりかちゃん、僕の天使さOHマイダーリン愛しておくれ。そうしていたら、雨はだんだん恵みの神水に思えてきて、夜の空気は春のように柔らかく、暖かくなったような気がした。

 僕は家につくとすぐに芥川龍之介の本を開いて、「何になっても、人間らしい、正直な暮らしをするつもりです」という文章をゆっくりと音読した。それからおもむろにFLASHをとりだし、胸のどきどきするのを感じながら表紙をめくった。すると梨華ちゃんはいきなり目の前に現れて、しかも水着すがたで、にっこり笑っていて、失神しそうになったけど、僕はなんとか耐えた。

 僕は梨華ちゃんが載っている数ページを、一番よく見える距離から見た。欧米風に表現すれば、23センチメートルくらいだろうか。非常によく見えた。梨華ちゃんは圧倒的にかわいくて、何とも言葉にならない感じのものがこみあげてきた。僕はその言葉にならない何かを、どうにかして言葉にしようとしたけど、できなかった。そこで僕は、梨華ちゃんに対する気持ちを、理性ではなくて本能に尋ねてみることにした。およそ6分後、僕は下半身ハダカで、自分の精液と梨華ちゃんの肢体とを交互に見やっていた。