ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

 ビートルズの「シー・セッド・シー・セッド」を聴いていた。ところへ姪っ子が闖入してきて、漫画ドラえもんを要求した。僕がおどろきとまどっていると、姪はベッドによじ上り、身をのりだして本棚の6階に手を伸ばした。いまにもベッドからころげおちそうだったので、僕は立ちあがり、姪のからだを支えた。僕のこの汚れきった手で姪を台無しにしてしまわないように、できるだけ優しく。そして僕がドラえもんを抜き取り、姪にわたしてあげた。その手に触れないように気をつけて。しかし人さし指の先がかすかに触れ「しまった」と思った。でも姪は全然気にする風もなく、無邪気にドラえもんを喜んでいたので、とても安心した。姪はベッドからジャンプして降りると、となりのトトロのビデオを発見した。本棚の一階にあるそれを手に取り、にっこりと笑うやいなやドラえもんを放り投げて、トトロのビデオを両手でしっかり抱きしめる。走る。出ていく。視界から消える。罪のない足音だけが、くっきりと聞こえる。

 となりの部屋から、となりのトトロの胴間声がひびいてくる。僕はしばらく我慢していたのだが、ついにはいても立ってもいられなくなり、部屋から走り出でて寝室に入りますと、姪がメイを探していたのです。姪は二つ並んだベッドの上を走り回っている。「メイ〜!」と叫びながら。僕はそろそろとベッドに上がる。崖っぷちに寝そべり、姪がメイを捜索する姿を丹念にながめた。姪はころげるようにして走り、そのスピードはとても速かったので、僕の目はくらくらしてきた。メイが姉のサツキによって発見されたあとも姪はメイの捜索をやめなかった。周回速度はどんどん上がっていった。音速をこえ、光速に達した。姪は目に見えなくなった。「メイ〜!」という声もだんだん遠くに離れゆき、やがて聞こえなくなった。

 姪はもしかしたら、トトロのいる世界に行ってしまったのかもしれない、と思った。僕も行きたい。そこに行けば子供に戻ることができ、子供のころの梨華ちゃんに出会えるような気がした。姪がさっきやったのと同じように、ベッドの上を駆け回ろうとしたが、体が大きすぎるためかうまく駆けることができない。どう頑張っても年寄りの競歩にしかならない。光速どころか音速にすら届かない。さらに僕のスピードは周回が増すたびに落ちてゆき、ついには膝が折れ手をついた。畜生、と思うと同時に、胸の奥からこんこんと涙がわきだしてくるのを感じた。僕は立ち上がりふらふらと寝室を出て、自分の部屋に戻った。そして梨華ちゃんの幼いころの写真を見つめながら、とめどない涙をティッシュペーパーで拭いつづけた。