ボン キュッ!ボン キュッ!BOMB(ファイナル)

梨華ちゃんのTシャツ♪

 コンサートに行ってきた。「君はまずTシャツを着なさい。話はそれからじゃないのかね?」とジュンジュンヲタのお人に説教されたので、Tシャツを買うため、早めに家を出た。太陽が控えめに輝いている。
 新宿アルタ前を通ったら、キラキラと美しい若者たちがいて、とても眩しかった。その光はあまりに強いので、僕の目は潰れてしまいそうになった。僕は目を思いきりつむり、色んな人や物にぶつかりながら歩行した。新宿の太い道路を歩き、ついに着いたは年金会館。ここで会ったが百年目。年金未払いすいません。

 梨華Tを買うため、僕はさっそくグッズ列に並ぶ。長くて太い列だった。見る人が見れば、興奮するのではないだろうか。何しろ、長くて太いから。僕のものは短くて細めだから、なんだか死にたくなった。梨華ちゃんは淫乱なんかじゃないから短くて細めであろうと気にはしないだろう、と自分に言い聞かせ、死にたい気持ちを弱まらせた。30分ほど待つ。いよいよ販売員と面会する。並んでいる間に考えておいたセリフを言う。
 「石川さんの日替わり写真と、石川さんのTシャツをください」
 店員Aは日替わり超特大写真をすんなりと持ってきた。それからTシャツを探す。なかなか見つからない。あちこちのダンボールに手を突っこむ。「あれ、石川さん、あれ、どこだろ、おーい、石川さぁん」と店員A。「あれ、どこだろ。ねえ、石川さんのTシャツ、どこですかねえ」
 「えーと、石川さんは、ここかな、違うなあ。あ、あそこですね、そう、そこです」と店員B。
 「あー、あった、石川さん!」と言って、笑顔で近づいてくる店員A。「こちらでよろしいでしょうか?」
 「はい、そちらでよろしいです」
 僕はピンク色のTシャツと特大写真を手に入れ、顔は無表情、心は満面の笑みで歩き出す。

 外は暮れなずむ新宿。開演時間の19時にはまだ間があったので、コンビニで発泡酒を買う。でも会場の近くで飲んだら、モーヲタの印象を悪くしそうだし、警備員に逮捕されるかもしれない。そこで僕は安心して飲めそうな場所を探して歩いたが、なかなか見つからない。仕方なく、自動販売機の近くで飲んだ。道を通る人たちが僕を変な目で見ているような気がして居たたまれない。三分の一くらい中身が残ったまま缶をゴミ箱にすてた。ゴン、という鈍い音がした。

 昼公演が終わったらしく、会場前には沢山の人がいる。端の方でしょんぼりしていたら、知り合いのジュンジュンヲタ氏を発見した。おずおずと近寄っていく。「おつかれいな!」と声をかける。
 「おやおや、ごきげんよう。Tシャツは買ったかね?」とジュンジュンヲタ氏。
 「ええ、買いました」
 「どれどれ、見せてみたまえ」
 「これです」
 「これは、なかなかのピンク色だね」
 「梨華ちゃんは、僕のことをさゆみんヲタと間違えないでしょうか」
 「おそらく大丈夫だろうね。さゆTは、これに比べたらずっと淡いピンク色だからね。石川さんはきっと君に気付いてくれると思われるよ。安心したまえ」
 「よかった。安心しました」
 「着てみたまえ」
 「え、なんですって?」
 「今ここで、その梨華ちゃんTシャツを着てみたまえ」
 「え、だって、恥ずかしい・・・乳毛がボウボウなんです・・・」
 「今着ている、その黒いTシャツの上から着ればいいじゃないか」
 「ああ、なるほど、その手がありましたね。それなら、新品の梨華ちゃんTシャツが汚れないし、恥ずかしい乳毛も誰にも見られない」
 僕は濃いピンク色のTシャツを着る。梨華ちゃんのいい匂いが鼻をくすぐる。秋の夜風が肌を刺す。最初はとても恥ずかしかったけれど、しばらくすると、恥ずかしさは消え、誇らしさが胸に宿っていた。この姿をフランス、ブラジル、インド、パリ、全世界の人に見て欲しいと思った。ジュンジュンヲタ氏は、ピンク色になった僕を見て言った。
 「いいね、よく似合っておる。その姿なら、きっと梨華ちゃんから爆レスがもらえるよ。間違いない。がんばりなさい」
 そして、本当に爆レスがあった。梨華ちゃんと、双眼鏡ごしに何度も目が合った。梨華ちゃんの笑顔はキラキラと美しく、とても眩しかった。その光はあまりに強いので、僕の目は潰れそうになった。けれど目は閉じなかった。この光になら、目を潰されても、体中を溶かされても、魂さえ消されてしまっても、一向にかまわない。
 双眼鏡で見ていて、梨華ちゃんの腰に何か貼ってあるのに気が付いた。なんだろう。サロンパスだろうか。ああ、梨華ちゃん、腰を言わせてもうたんやね。大丈夫かな。心配だな。痛くないのかな。無理しないでほしいな。ああ、もう、腰を痛めているのに、そんなに激しく踊っちゃって。大丈夫かな。いたいのいたいのとんでけー。ふっち君に飛んでいけー! いたい! いたたたっ!

 MCで、「どれが本当の梨華ちゃんなんですか?」と三好さんが質問する。かわいい梨華ちゃんとか、セクシーな梨華ちゃんとか、照れ屋さんな梨華ちゃんとか、黒い梨華ちゃんとか、寒い梨華ちゃんとか、KYな梨華ちゃんとか、いろいろありますけど、どれが本当の梨華ちゃんなんですか? 梨華ちゃん曰く「つまり、全て私なんです。つまり、こんな私を丸ごと、愛して、ファイ!」三好さん曰く「え、ど、どういうことですか?」梨華ちゃん曰く「だからつまり、こんな私を丸ごと、愛して、ファイ!」
 かわいい。可愛すぎる。十万石りかりん。梨華ちゃんが愛しい。大好きだ。僕はね、僕はね、梨華ちゃんのことをね、丸ごと愛してるよ。一切合財大好きだよ。服装がヘンテコな梨華ちゃんも、トイレの匂いがする梨華ちゃんも、気弱で弱気な梨華ちゃんも、デコ出しの梨華ちゃんも、楽屋で愚痴をたれる梨華ちゃんも、飲んだくれの梨華ちゃんも、ぜーんぶ大好きだよ。もし、処女じゃなくったって・・・。僕はね、とても辛いけど、すごく悲しいけど、きっと死ぬだろうけど、処女じゃない梨華ちゃんのことも、大好きだよ・・・。

 公演が終わって、「おつかれいな。どうだったかね、レスはもらえたかね」とジュンジュンヲタ氏。
 「ええ、驚くほどの爆レスでした。双眼鏡ごしに、何度も目が合いました」と僕。
 「おやおや、それじゃダメだよ。双眼鏡ごしじゃあ、ダメだよ」
 「すいません・・・」
 「やっぱり下に降りて来ないとダメだよ。ファミリー席もいいけど、下で一緒に汗を流した方が石川さんは喜ぶと思うよ」
 「やっぱりそうですよね。汗を流さないとダメですよね。でも僕は、汗のかわりに、涙を流しています。梨華ちゃんを見ていると、なんだか泣けてくるんです。涙じゃ、駄目でしょうか。悲しいのか嬉しいのか不幸なのか幸福なのか、よくわからないんですが、とにかく涙が次から次へと、流れてくるんです」