午後3時頃、梨華ちゃんのブログを開くと、「応援していただいている皆様へ」というタイトルが目に入りました。「1年以上温めてきたツイートを投稿するときが、とうとうやってきたな…」と思いました。梨華ちゃんがこの日に入籍することが報道によってあらかじめ分かっていたからか、前日の過ごし方が良かったのか、僕は冷静でした。泣きもせず淡々と「結婚用テキスト」というファイルをダブルクリックし、文章をコピーし、Twitterにペーストして送信しました。
「梨華ちゃん、結婚おめでとう! 梨華ちゃんはヲタ想いだから、自分の幸せを後回しにしてきたようなところがあると思うけど、これからは自分の幸せと家族の幸せを第一に考えて生きて行って下さい。梨華ちゃんが幸福な人生を送れるよう、心から祈っています。これからも梨華ちゃんのことが大好きです!」
結婚おめでとうツイートをした後、立ち上がって、洗面所に行きました。何杯か水を飲み、部屋に戻ってきて、梨華ちゃんのポスターを見つめました。ポスターに向かって「結婚おめでとう」と言おうと思ったけれど、「ああ…やっぱ言えねえや…」となり、目を逸らしました。「もっと時間が必要みたいだ…」と思いました。
僕は「梨華ちゃん結婚おめでとうツイートを投稿したら、チベットか北欧などの遠いところに旅に出ます」と何回も言っていましたが、いざその時が来たら、旅に出る元気が全くないことに気付きました。仕事もあるし、耳マンでの連載もあるし、お金もないので、旅に出るのはやめることにしました。
今ごろ、テレビニュースで梨華ちゃんの結婚を報道しているだろうか。梨華ちゃんの結婚を知ったお母さんはきっと、小走りで僕の部屋に来て、「梨華さんが結婚したって!」と報告するだろう。そのとき、できるだけ笑って「あ、そうなんだ。めでたいね」と言えたらいいな。「そんな報告いらないよ!」とキレないようにしたい。そう思いながら、ドアが開くのをおどおどと待っていましたが、お母さんが僕の部屋のドアを開けることはなかった。
梨華ちゃんが結婚したという実感は、まだ湧いてきません。「なんていうことだろう!」とびっくりしました。「僕は未だに梨華ちゃんにガチ恋している。このままだと、人妻ガチ恋おじさんになってしまうかもしれない。梨華ちゃんが結婚したからと言って、すぐにガチ恋が消滅するわけではないんだな…」
半ば放心状態でTwitterを見ていたら、梨華ちゃんの結婚記事の見出しが目に入りました。そこには「何があっても2人で」と書いてあり、胸に重い衝撃を受けました。9年前の美勇伝バスツアーの握手会で、「これから先、何があっても、僕は梨華ちゃんの味方です」と告げたことを思い出しました。「何があっても2人で」生きていくのなら、僕はもう必要ないんじゃないだろうか、と思い、悲しい気持ちになりました。
ずっと禁煙していた僕だけれど、どうしても煙草が吸いたくなってきました。友人が忘れて行った煙草を手に取り、吸い始めました。とても優しい味がします。その時すがれるものは、煙草しかありませんでした。10年くらいぶりにじっくり煙草を吸っていたら、10年くらい前の梨華ちゃんとの色んな思い出が鮮明に思い出され、つらい気持ちになってきました。あの頃の未来に、僕は途方に暮れながら立っていました。これから一体どうしたらいいんだろう? そして、やけ酒を飲みにいくことにしました。大宮駅近くの居酒屋を呆然として巡り、最終的に中国人パブに辿り着きました。そこには「りか」という名前の人がいて、運命を感じました。僕は「りかさんかわいいね」「りかさんスタイルいいね」などと褒めそやし、りかさん(38歳)と仲良くなりました。なかなか意思疎通できなかったので、中国語を勉強しようと思いました。
僕は、梨華ちゃんが結婚するまでは結婚しない、という謎の自分ルールを作っていました。「そのルールも消滅した今、何もためらうことはない。中国人パブのりかさんに恋をしよう。そして梨華ちゃんのことは忘れてしまおう」と思ったけれど、帰りの夜道で思い出すのは、りかさんのことではなく梨華ちゃんのことばかりでした。まだ、涙は出てきませんでした。