ふっち君の日記。

石川梨華ちゃんにガチ恋しているおじさんの記録

想像するだけで世界の全てがいやになる。

 昨日の僕は相当にうざかったと思う。さいきん『ガキの使いやあらへんで』のビデオばっかり観ているので、やたら関西弁でしゃべった。なんとかやん、いけてるやん、素敵やんとか言った。しまいには梨華やん、とまで言いそうになった。それはなんとか我慢できたけど、関西弁はどうしても出てきた。僕は、松っちゃんみたいになりたがっていた。だけど僕は松っちゃんみたいには天才じゃないから、面白いことはぜんぜん出てこなかった。ただ関西弁でしゃべっているというだけのことだった。となりにいたY君は言った。
 「ふっちさんはふっちさんのままでいてください。松っちゃんにはなれないんだし、なる必要もないんですよ。ふっちさんはふっちさんのままでいいんです。そんなふっちさんが僕は好きなんです。関西弁なんて喋らないでください。突っ込むのにも疲れました。なんで関西弁なんですか、という突っ込みを僕は何回しましたか。果てしないくらいしました。もうこりごりです。ふっちさんはふっちさんという人格を大事にするべきです。それはかけがえのないものです。松っちゃんになろうとするのはもうやめてください」
 だけど僕は、ふっちさんという人のことがよくわからなかった。ふっちさんて誰だよ、どういう人間なんだよ。どういうふうにすれば僕はふっちさんになれるんだ? わからない。松っちゃんには簡単になれそうな気がする。少なくとも松ちゃん的にはなれる。関西弁を使えばいい。僕はふっちさんのことよりも、松ちゃんのことの方がよりよく知っているし、はっきり言って松ちゃんの方が好きだ。いったいどうして、僕はよく知りもしないし好きでもない、ふっちさんとかいう人にならなければならないのか。僕はそう思って、ふっちさんになることを拒否した。鉄よりもかたく拒否した。それからもずっと、関西弁を使って話をした。Y君は言う、「ふっちさんは、気が狂っているのじゃないですか」。僕は言う、「ああ、そうかもしれんね、気が狂ってるのかもしれへんね」

 家に帰る途中、僕はずっとふっちさんに付きまとわれていた。前進しようとして前方を見ると、どうしたってふっちさんの手だか足だかが視界に入った。僕はふっちさんを視界に入れないために、空を見上げた。青色にすんだ青い空が見えた。しかしながら僕はふっちさんの髪の毛を、その青い空の端っこあたりに発見した。僕はふっちさんから逃れるために目をつむった。こうすれば安心、僕はふっちさんを見なくてすむ。どうして目をつむるということを思いつかなかったのだろう。そこには暗黒があった。誰もいない。ふっちさんもいない。だけど僕は気付いてしまった、自殺してしまいたくなるほど恐ろしい事実に。僕はふっちさんのまぶたの裏側を見ているのだ。この暗黒は、ふっちさんによって作られたものなのだ。僕は本当に、まわりの人たちがうらやましくてしょうがなかった。離れていようと思えば、いくらでもふっちさんから離れていられるというのが、うらやましかった。僕はいくら松ちゃん的になっても、ふっちさんから離れることはできない。僕はふっちさんのことを憎んでいるのに、殺したいほど嫌悪しているのに。こんな醜い人間と、一生いっしょにいなければならないということは、何にも勝る不幸であるように僕は感じる。自殺するにも、ふっちさんの手を借りなければならない。冗談じゃない、こんな人間に殺されるなんて! ああだれかだれかだれか、僕のことを殺しに来てくれないだろうか。ふっちさんという悪魔的なストーカーから、僕を解放してはくれないだろうか?

 家に帰ってきて、ベッドの上にうずくまる。ひどい二日酔いだ。吐きそうだ。僕は今、ゲロを吐いてしまいそうだ。でも僕は我慢した。そうしていつの間にか眠った。目が覚めると、体はいくぶん楽になっていた。ゲロを吐いてしまいそうな感じはほとんど消えていた。パソコンを起動させる。『娘。楽宴』というサイトを見る。そこで新堂本兄弟梨華ちゃんが出るということを知る。僕は、下半身に奇妙なしびれを感じた。どうしよう、梨華ちゃん堂本兄弟に出るなんて、僕はいったいどうしたらいいんだ。梨華ちゃんがもし光一に惚れたらどうしよう。梨華ちゃんはたぶん光一のことを好きになると思う。光一も梨華ちゃんのことが好きになると思う。そうなれば、何ものも彼らを止めることはできないんじゃないか。若い男女が、お互いに好き合っていたとしたら、そんなの、どうしたって、そういうことになるじゃないか。何か邪魔が入ったって、そんなものは燃え上がった情熱の炎が焼き尽くしてしまうに決まっているじゃないか。どうしよう。梨華ちゃんが光一と結婚しちゃったらどうしたらいいの。やだ、やだ、やだよ、そんなことになったら生きていけない。冗談抜きで、死ぬしかない。僕は梨華ちゃん堂本兄弟に出ることを知って、奈落の底まで落ち込んだ。一すじの光も見えない。出なくていいのに、そんな番組、出なくていいのに。梨華ちゃんが光一と楽しそうに笑ってるところなんて、僕は見たくない。想像するだけで世界の全てが嫌になる。

 それから、もうリカニーをするしかないと思って、梨華ちゃんの写真集を持ってトイレに入った。しかしながらちっとも立たなかった。下半身のしびれはまだ続いていた。なんなんだろう、この奇妙なしびれは。少しだけ快感をともなった奇妙なしびれ。立たないのは、このしびれのせいなのだろうか。しかしとにかく立たない。どんなにがんばってもピクリともしない。いや、ピクリとはするけど、ピクリ以上の動きはまったく見せない。こんなこと初めてだ。よく考えたら、オナニーしようとして立たないのって生まれて初めてかもしれない。どうしちゃったのかなあ、僕のちんちんは。駄目になっちゃったのかな。あるいは、僕のちんこは、ミロのヴィーナスから大いなる英知を授かったのかもしれない。そして僕のちんこは、気付いてしまったんだ。梨華ちゃんのまんこに思えるようなこの穴は、オナホールでしかないんだってことに。これは、結局のところ、リカニーにすぎないんだってことに。僕はリカニーを断念して、写真集を閉じた。ごめんね梨華ちゃん、今日はちょっと立たないんだ。いや、ごめんっていうことはないか。むしろ梨華ちゃんは嬉しいだろう、おかずにならなくてすんで、喜んでいるだろう。それならまあ、よかったのかなあ。そして、それからもずっと、下半身のしびれは続いた。今でもまだしびれている。