ねえ、梨華ちゃんが好きだよ。

 午前3時、僕は浅い眠りから覚める。夢をみた。スマップの中居くんが足を骨折したために、僕が中居くんになることになった。僕は横浜スタジアムのステージに出ていった。僕が中居くんではないことがファンのみんなにバレるのではないかと不安だったけど、ステージに出てみると、僕はどうやら完璧な中居くんだった。みんなが僕に対して声援をおくってくれる。僕は踊りをおどって、歌をうたった。僕が中居くんでないことは誰にもバレなかった。中居くんのウチワを持った人が、僕に熱い視線を投げてくる。僕はそういう人たちみんなの顔がよく見えた。ステージから、お客さんの顔がこんなによく見えるなんて、思いもよらなかった。横浜スタジアムはこんなにも広いのに。外野席の奥の奥まで明瞭にくっきりと輪郭をとらえることができた。その人の人生、家族、夢や趣味、性癖などまで、すべて見通せるような気さえした。いろいろな人のいろいろな愛が僕にふりそそいできている。僕はそれを感じた。それには重みがあった。物理的でもあり、形而上的な重みでもあった。僕はけっきょくのところ、その重みに耐えることができず、おしつぶされてしまった。僕には、わからなかった。こんなにもたくさんの愛を、どうやって返していけばいいのか。

 僕は喉のかわきを感じた。バッグの中から飲みかけの午後の紅茶をとりだして飲んだ。半分いじょう残っていたけど、一気にぜんぶ飲み干してしまった。とてもおいしかった。午後の紅茶を、午前3時に飲むということは、一体どういうことなんだろうと考えた。午後の紅茶を午前3時に飲んでも、別に誰に怒られるすじあいのものでもないと思った。それから僕は、以下のような結論を自分の中で出した。午後の紅茶を午前に飲むことは、どういうことでもなく、どういうものでもない。どうでもいいことである。そしてまた、この結論も、どうでもいい。

アロハロ!石川梨華 DVD

アロハロ!石川梨華 DVD

 僕は梨華ちゃんのDVDを抱いて眠ったりしてはいたけど、本来のやりかたでDVDを楽しむことはしていなかった。できなかった。だって梨華ちゃんが60分間出ずっぱりで、まさに僕だけの石川梨華になるなんて、耐えられるわけがない。心臓がやぶれちゃうんじゃないかなあ。でも僕は、なんだか何もかもどうでもいいような気持ちでいたので、DVDを見よう、そしてリカニーをしようと思った。

 DVDが始まると、すぐに△ボタンを押してメニューを表示させ、迷わず「Beach 1」を選んで○ボタンを押した。するとやっぱり、予想通りに、梨華ちゃんの水着姿が画面にあらわれた。梨華ちゃんはその若さあふれるスリムチボディを、海辺で美々しくおどらせている。バックミュージックには、『好きすぎて バカみたい』のインストルメンタルが流れている。16ビートのノリのいい音楽である。僕は16ビートのリズムで、左手を上下させる。なによなんなのよ。僕は梨華ちゃんのことが、好きすぎてバカみたいっていうか、バカだ。そこ抜けのバカだ。なんでこんなに好きなのよ。なによなんなのよ。僕は梨華ちゃんを苦しめたくはないんだけど。おしつぶしたくはないんだけど。でも好きなんだ。ごめんね梨華ちゃん。射精。

 それから僕は「Beach 2」を選択して○を押した。今度の音楽も、『好きすぎてバカみたい』だった。梨華ちゃんは16ビートの浜の上で16ビートの水をこの上なくエロチックに浴びる。浴び続ける。僕もそのリズムに同調して、やりたいと思ったけど、僕のちんちんは生まれたてのイモムシになっていた。僕はただ「何よなんなのよ」と、その珍奇なイモムシを見つめながらつぶやく。ねえ、梨華ちゃんが、梨華ちゃんが好きだよ。って言ってみるけど、その言葉は16ビートの音楽と鈍色の朝日によってかき消されてしまった。