ベリテンライブ

 出かける前、しばらく穿いていなかったGパンを穿いたら、がんばらなければウエストのボタンを留めることができなかった。大きな衝撃を受け、「ふちりんのメタボリックが半端じゃねえことになっているな!」と思った。ボタンをとめないまま、チャックを少し下ろした。ベルトをはめ、腰周りを固定した。
 「このようなメタボ腹では、梨華ちゃんにガッカリされてしまうかもしれないな……。そんなのやだ! しばらく断食することによって痩せよう。ジョギングとかはめんどくさいのでヤダ」と独りごとを言った。

 宇都宮駅に向かう電車の中で、行書の参考書を開いたが、隣に座っている若い女性の匂いと感触が気になって勉強どころではなかった。「梨華ちゃん……他の女の人にドキドキしてしまってごめんね……。でも浮気は絶対しないから安心してね」不可避的に鼻をクンクンさせながら、そう思った。

 宇都宮駅につくと、「スタバのあたりに居ます」とシヴイさんから電話があった。駅ビルの1階にあるスタバに入っていった。スタバの中を歩き回ったが、シヴイさんの姿はなかった。ある若いカップルが向かい合って座って、手と手を重ね合わせていたので、「朝っぱらから見せつけやがって! お幸せに!」と思った。よく考えたらシヴイさんは車で迎えにくるのだからスタバでコーヒーを飲んでいるわけはないだろうと思い、外に出た。どの車だろうと辺りを見回す。山の中を豪快に突っ走りそうなごつい車があり、あれはシヴイさんのものではないだろう、と即座に考えた。シヴイさんの車は繊細なボディーラインの車であるだろうと何故か思い込んでいたのである。しかし電話がきて、「こっちを見てください」とシヴイさんが言い、そっちを見たらごつい車があり、その中でシヴりんが手を振っていた。あんな強そうな車に乗るだなんて、ちょっと意外だな。と思ったけど、そうは言わなかった。言ったらシヴイさんを傷つけるような気が、なんとなくしたのである。

 シヴイさんの運転するごつい車はなめらかに走り、やさしい振動を僕達に与えた。本当に強い男はいざという時意外はとても優しい、という言葉を思い出した。途中でコンビニに寄って、僕は麒麟端麗のロング缶を買いました。「こんな昼間からお酒を飲んでいいのだろうか、しかもロング缶を……」と思ったが、一口飲んでみたら異常なほどおいしかったので、その疑問は泡になって消えた。僕らは「PC」という駐車場に車をとめねばならなかったのだけど、シヴイさんの持参した地図にはPB・PD・PAの場所だけが記載されており、どうやってPCに行けばいいのかは誰にもわからなかった。「しまったなあ。ちゃんと調べてくればよかったなあ」とシヴイさんは言った。でもシヴイさんの奮闘の末、PCの駐車場になんとか辿りついた。自動車が死ぬほどたくさん置いてあり、とてもびっくりした。駐車場に入って、バイトの人に誘導されたのですが、そのバイトの人が、駐車場沿いの木立の日陰から絶対に出ようとしないで、ダルそうに赤い棒を振っていたので、二人で笑いました。

 そこから無料の送迎バスに乗った。そのバスは何のアナウンスもなしにいきなり扉を閉め、出発したのでびっくりした。本当は送迎なんてしたくないんだけどしょうがないから、というようなシヴシヴ感がとても強く感じられた。

 会場に入ると、シーモらしき人たちの歌声が聞こえた。それをなんとなく聴きながら、広々とした緑の広場の後ろの方へ行った。ブルーシート的なものはシヴイさんが購入した。僕はその代金をなぜか払わなかった。ごめんなさい。

 シーモが終わったあと、ステージの近くに行って、いきものがかりを見た。顔はよく見えなかったけど、かわいいと思った。からだを適当にゆらゆらさせながら見た。
 「梨華ちゃんはこういうときどういうスタイルでライブを見るのだろうか。あのトランスチャーミーみたいに、ランバダのリズムで激しく踊り狂うのだろうか。それって超かわいいな。好きだよ!」と思った。

 いきものがかりが終わったあと、「可愛かったですね」とシヴイさんが言った。
 「可愛かったですよね。顔はちゃんと見えましたか?」
 「いえ、よく見えませんでしたが、可愛かったです」
 「その気持ち、よくわかります」

 音速ラインが歌っているとき、上半身裸になってジーパンをおろした半ケツ丸出しの男が気になりはじめた。その半ケツ男の属するグループは、僕たちの座っているシートの斜め前に陣取っていた。半分お尻を出した男は、シートに寝そべって、「ふおおおおおおお!」というような叫びを発していた。
 「あれを1人でやっていたとしたら、完全なる狂人ですよね」と僕は言った。
 そしてその男は半ケツを出したまま、近くに居た女性三人組に声をかけた。しばらくすると、その男は女性たちと携帯のアドレスを交換していた。
 「半ケツなのに、どうしてナンパが成功するのだろうか。半ケツだからだろうか。梨華ちゃんがあんな男にひっかかったらどうしよう。いやだな……」と思った。

 酒をどんどん飲みながら、ファンキーモンキーベイビーズが熱いライブをやっているのを観た。そしてついにサンボマスターの出番がやってきたので、前の方のスタンディングスペースに行って好位置をキープした。サンボが出てくると僕の心は高鳴った。山口さんが「僕はあなたの心の闇をぶっ潰しにきました!」と叫び、いろいろな曲をメチャクチャなやり方でやった。ベースの近藤先生が、ベースを投げ捨てて、パイプが組み合わさって出来た柱に登って雄たけびを上げた。間違って落ちたら死を免れないだろうと思われる高さだったので、僕は近藤先生の身の安否を案じた。全ての演奏が終わってみると、僕の心に巣食った闇はいくらか死んでいた。

 僕は相変わらず酒を飲み続けていた。するとシヴイさんが「体調が悪いです……吐きそう……死ぬかも……」と言ってシートに寝そべったので、非常に心配になった。そしてこのあたり以下の記憶は曖昧になっている。シヴイさんは確か死ななかったと思う。魚民という居酒屋で飲んでいたら、「だいぶ調子がよくなってきました」と言ったので、僕は喜び、「では、快気祝いですね!」と言って半分ほど残っていた発泡酒を飲み干した。
 宴もたけなわになると、僕はハチマキを頭に巻いた。いったい何の目的で締めたのだろう? 宴がたけなわになったからだろうか? シヴイさんはメロン記念日の帽子をかぶっていた。そして僕は、携帯の待ちうけにしている、僕と梨華ちゃんのラブラブ2ショット画像を、魚民の店員に見せつけようとした。でも見せつけなかったのは、見せ付けようとしたことを忘れたからかもしれないし、シヴイさんに止められたからかもしれない。

 さらに宴がたけなわになると、魚民から笑笑に移動した。そこで僕は幻覚を見始める。たか木さんがいるような気がしたのである。「最初から3人で飲んでましたよね?」と僕は言った。
 「いえ、最初から2人で飲んでいましたよ。ふちりん、しっかりしてください!」
 「りかりん……。あれ、りかりんはどこですか?」
 「梨華ちゃんもたか木さんもいません! しっかりしてください!」
 「ふみゅう……」